研究課題/領域番号 |
19K00319
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿部 美香 名古屋大学, 人文学研究科, 共同研究員 (10449093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 融通念仏縁起絵巻 / 醍醐寺閻魔堂 / 九相図 / 無常講式 / 貞慶 |
研究実績の概要 |
本科研研究の柱の一つである融通念仏縁起の研究は、JSPSグローバル展開プログラム「絵ものがたりメディア文化遺産の普遍的価値の国際共同研究による探求と発信」にも協力して蓄積した大念佛寺所蔵融通念仏縁起絵巻諸本の全点を、他の伝本と比較し、その書誌情報と共に画像を悉皆的に比較参照できる図版を含め、総合的に紹介することを目指し、髙岸輝氏、阿部泰郎氏、神﨑寿弘氏の協力を得て、個別研究を併せて編んだ共同研究の成果として公刊することができた。 また、もう一つの柱である醍醐寺閻魔堂をめぐる境界的宗教空間の解明においては、外壁に描かれたと伝えられる九相図の存在を、現存する九相図テクストおよび閻魔堂内部に構築された儀礼空間を支える儀礼の詞の再解釈から復原的に考察することを試みた。その結果、成賢により閻魔堂の儀礼テクストに用いられた講式の作者である貞慶の弥勒講式が、蘇東坡に仮託された九相詩序文の出典であることが確認されたことに加えて、貞慶に帰依した後鳥羽院が承久の乱後に配流先の隠岐で草した無常講式に、貞慶の詞だけでなく九相図に繋がる世界が表現されていることが明らかとなった。その上で、後鳥羽院と閻魔堂願主である宣陽門院との紐帯に着目し、宣陽門院自身の宗教的主体性を問い直すことにより、九相図を伴う醍醐閻魔堂が、十三世紀初期の朝廷をめぐる歴史と宗教の接点として重要な意義を帯びた境界的宗教空間であることを、全く新たな視座から浮かび上がらせ、論じることができた。 上記の成果を、本科研のもとで、山本聡美氏(美術史)や牧野淳司氏(国文学)との科研研究とも連携した成果報告として示すことができた意義は大きい。 一方、富士山をめぐる東国の境界的宗教空間の研究成果発信の試みは、新作「富士山絵伝」が静岡県富士山世界遺産センターでの公開されるのに伴い、絵解き解説を担当して、地域社会への還元にも努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の一貫した主要な対象である融通念仏縁起絵巻について、融通念佛宗総本山大念佛寺に所蔵される絵巻の全点を収録し、他の関連寺院に所蔵される同絵巻との比較対照図を作成し系統的に位置付けた集成を示すことができた。その成果は、同絵巻の諸本研究において従来参照されてきた田代尚光の研究に更なる進展をもたらし、新たな展望を与えるだけでなく、縁起絵巻研究全体にも大きく貢献できるものと考えている。 また、中世における冥府の儀礼空間の始発をなす醍醐寺閻魔堂の研究は、これまで最も位置づけが不明であった九相図について、儀礼の詞から問い直すことにより、貞慶の作になる講式を介して、明らかでなかった伝蘇東坡作九相詩序文の出典が確認できたばかりか、後鳥羽院の無常講式と九相図との連関についても初めて正面から論ずることができた。これに、後鳥羽院の運命を見守った閻魔堂願主宣陽門院との紐帯や宣陽門院自身の宗教的主体性を重ねて論じ、一連の宗教儀礼と図像空間の生成する歴史的、文化的背景と文脈が明らかになったことで、本研究は、本科研が目標とする中世の境界的宗教空間の形成の主体を鮮明に浮かび上がらせる、画期的な進展を見ることができた。 これらの研究を受けて、聖衆来迎寺本六道絵を対象として、冥府の境界的宗教空間を図像と儀礼の詞の関わりから問い直す試みを、美術史研究との連携のもとに進め、「中世仏教美術における霊性の発生と継承に関する基礎的研究」研究会(代表山本聡美:JSPS 18K00168)では、基礎資料を集めた資料集を作成し、報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みの成果を踏まえて、境界的宗教空間を創り出す主体の側から編まれ発信される儀礼テクストに着目し、その探査、収集のための取り組みを重ねる。また、醍醐寺閻魔堂における宗教儀礼と図像空間を生成する歴史的、文化的背景と文脈の明らかにする試みを継続して進めるとともに、その成果を聖衆来迎寺本六道絵(国宝)の再解釈に向けた試みに繋げ、廿五三昧会との関わりから問い直すことを試みたい。 同時に、重要な唱導文献の資源化と本文分析を、他の科研研究(唱導の場から見た日本古代中世文学の特質についての総合的研究」代表牧野淳司:JSPS 20H01235)との連携を重ねながら進め、国内外にむけた発表の場を経て、成果の発信にもつとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大による影響で、予定していた国内海外の調査・研究会が延期となった。その分について、次年度は、重要な文献資料の資源化と研究発表に向けた資料集や報告書の作成、および探査のための旅費に使用する計画である。
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備考 |
仏教タイムス(4月16日号)連載リレー執筆「神話と仏教―日本書紀1300年― 第10回」に「伊豆の神と仏法センター」として記事を掲載。
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