研究課題/領域番号 |
19K00329
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
大森 英実 (木内英実) 東京都市大学, 人間科学部, 准教授 (70331501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 戦争詩 / 看取り / 名誉の戦死 / 個人的エピソード / 国語科教科書 / 旧制中学 / 教科書教材 / 文学評価 |
研究実績の概要 |
全世界的なコロナ禍の中、予定していた国内外の出張を伴う研究調査は、英国大学図書館訪問、European Association for Japanese Studies ベルギー大会参加、静岡市中勘助文学記念館訪問をはじめ全く実施できなかった。研究遂行の困難さが予測できた2020年夏より2020年度はこれまでの研究成果を発表することに注力する方針へ変換を決め、10月30日に実施された駒沢女子大学日本文化研究所主催オンライン研究会発表①「日本近代文学に描かれた生と死~中勘助を中心に~」、研究論文としては②「戦前・戦中の教科書教材としての中勘助作品の位置づけ」『東京都市大学人間科学部紀要』第12号(2021年3月)、③「日本近代文学に描かれた生と死~中勘助を中心に~」『日本文化研究』第14号(2021年3月)の3件の研究業績を残すことができた。 ①について中勘助の戦中の文学業績である戦争詩について、戦意高揚を目的とする重要な軍事作戦における勇壮な兵士の戦いぶりやその結果としての名誉の戦死を戦局報道をもとに描く創作手法と、個人的なエピソードをもとに戦争犠牲者が家族の一員(母親に対する息子、父親に対する娘)として家族もしくは第三者によって看取られる最期を描くという手法との、対照的手法2種が用いられたことを明らかにし、そこに家族による看取りを重要視してきた日本の死をめぐる文化と中勘助の実際の看護経験の影響を見出した。研究所主催の研究会ということで大変有意義な助言を研究所員から得られたことは大きな成果であり③をまとめる際にそれを大いに活用することができた。②について中勘助の戦前から戦中・戦後に至る文学評価を支える教科書教材採択に着目し、国立教育政策研究所教育図書館「近代教科書デジタルアーカイブ」を用いて旧制中学校国語科教科書採択中勘助作品の本文調査を行った結果を示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上記、研究実績の概要に記したように新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下の県をまたぐ移動制限及び海外渡航制限により、当初予定していた国内外の出張を伴う研究調査は、英国大学図書館訪問、European Association for Japanese Studies ベルギー大会参加、静岡市中勘助文学記念館訪問をはじめ全く実施できなかったことを理由とする。 特に本研究課題の特色である超越的文化バイアス視点からの研究について、研究会や学会大会が軒並み中止もしくは延期になったことにより、国内外の研究者との研究交流が実現できなかった。海外研究者との交流において頼みの綱であった2021年度European Association for Japanese Studiesのオンライン大会開催日時と所要日が重なったこともあり、更なる研究計画遅延が見込まれ研究計画変更も余儀ない状況であると考える。全世界的な新型コロナウイルス(2021年度は変異株)流行は個人の力ではどうすることもできないので、現時点では国内でできる限りの研究調査と研究成果発表に注力していく所存である。 研究調査の挽回を図る2021年度終了時点で判断したいと考えているが、2020年度の研究調査が中断したことの補い措置として、2022年度まで研究を延長することも視野に入れている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年3月に静岡市より中勘助文学記念館新規受け入れ資料審議委員就任依頼を受けたことから、東京都緊急事態宣言解除後に静岡市中勘助文学記念館での研究調査再開が見込まれる。 そこで今年度の研究活動として次の①~③を予定している。①2020年度の実績に記した中勘助の戦前から戦中・戦後に至る文学評価を支える教科書教材採択作品調査の内、残る戦後について国立教育政策研究所教育図書館「近代教科書デジタルアーカイブ」を用いて調査する。②終戦直前に静岡で始めた作句について、中勘助直筆資料を基に当時の随筆作品や詩と併せて当時の生活や戦争観について探る。③戦後に執筆し始めた小学生を対象にした児童文学作品の解題並びに中勘助の文学業績における位置づけを、中勘助直筆資料を基に探る。 研究発表として、所属する昭和文学会、日本近代文学会への投稿、新規入会の日本児童文学会、全国大学国語国文学会での発表準備に取り組む。教科書教材採択作品調査については、単著刊行を目標とする。 いずれにしても新型コロナウイルス変異種の感染拡大が世界中で起きている現状下、海外での研究調査や海外学会での発表は見送り、国内での研究調査及び学会発表に方針を変換する。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的新型コロナウイルス感染拡大期において当該年度における国内外の研究調査を目した出張が移動制限により不可能であった。研究業績として1件の研究発表、2件の研究論文があるが、国内における主たる出張を伴う調査機関①国立教育政策研究所教育図書館及び②静岡市中勘助文学記念館について、①は緊急事態宣言発出下は当然のこと昨年度は利用制限があったので「近代教科書デジタルアーカイブ」検索結果の閲覧希望資料に関しデジタル資料をメール添付で送信してくださるサービスを受けた。②についても県をまたぐ訪問を控えて欲しいとの利用制限があった。よって出張及び資料複写代によっても予算を使用するに至らなかった。 2021年3月に②より調査依頼があり5月に発出された緊急事態宣言解除後に訪問の予定がある。その折、吉井勇の戦中戦後文学活動を専門とされる静岡県立大学の細川光洋先生と同席するので吉井勇の戦中・戦後創作についてお尋ねしご指導いただく。このように滞っていた静岡市中勘助文学記念館での研究調査を再開し、出張旅費、必要な資料購入、研究助言謝礼などに研究費を使用する予定である。
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