本研究課題の開始当時、以下の四つの柱をたてて、実施計画を立てていた。1.資料調査、撮影、目録作成とデータベース化、2.〈覚書〉に関する文芸資料としての分析および資料所在情報の収集 3.資料の翻刻と資料集の原稿作成、4.成果報告。最終年度にあたる本年度は、新型コロナ感染症の影響で遅れてしまった1の資料調査・撮影・目録作成についての取り組みを少しでも先に進めるべく、西尾市岩瀬文庫、鹿児島県歴史・美術センター黎明館、鹿児島県立図書館、人吉市立図書館、宮之城歴史資料センターなどでの資料調査に赴き、関連資料の基礎情報の収集を継続した。また、韓国でも、国立中央博物館等で関連資料の収集を行った。単年度で可能なかぎりの調査を行ったものの、期間全体としては訪問先を絞り込まざるをえず、十分な対応がしきれなかった。 ただし、それでも南九州の資料的状況を焦点化して成果をまとめるべく取り組み、2の分析を含めて基礎データを充実させることができた。他地域の資料についての基礎調査が当初の予定通りには進んでいないため、3の資料集の刊行はこの先の課題とせざるを得ないが、重要資料の翻刻は期間全体を通じて継続して取り組んできたため、すでにいくつかの資料についての素稿を作成済みで、これから順次公刊していくことにする。 4.成果報告の一環として、本年度は、薩摩藩関係者による覚書に関する文芸資料としての分析と、文禄・慶長の役で捕虜として日本に連行されてきた「てるま・かくせい」と呼ばれた人々についての見解を論文としてまとめることができた。研究発表としては、鹿児島の隼人文化研究会にて、薩摩藩における幸若舞曲の受容史に関する発表をおこなった。そのなかには、本研究課題を通して発見した資料、分析の視点、課題などを盛り込み、地域資料の可能性についての議論を深めることができた。その内容は現在成稿中である。
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