研究課題/領域番号 |
19K00333
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和田 敦彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90283225)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化外交 / 日本文学 / 日本研究 / 書物流通 |
研究実績の概要 |
本研究では、第二次世界大戦前、及び戦中期の日本の国際文化戦略の中で、日本の書物を海外に送る、という事業がもった意味や、その中での文学表現の役割を明らかにすることを目的としている。 特に戦時下において日本が海外に向けて送り出した書物に関心を向けており、同時期に海外に設置された日本文化会館や日本文庫をもとに、その形成の過程や役割を検討している。ただ、感染症の世界的な拡大のなか、海外の所蔵調査の実施は困難となったため、これまでの調査で収集してきた撮影データ、資料の分析を進めた。特に東南アジア地域については、これまでの収集データがまとまってきているため、その分析と検討に重点をおいて進めることとなった。 成果としては、これまで進めてきたベトナム社会科学院所蔵の日本語資料について、ベトナム側で国際会議が実現することとなった。同資料について、国際的な協力、研究の広がりを得る一方、自身では特に日本の文化工作と残された日本語資料との関わりについて明らかにし、報告した。また、日本の文化外交と海外日本語資料との関わりについては、ベトナム以外の地域も含め、これまでの調査成果を反映させて著書の増補改訂版を刊行することとした。 さらに、戦争の記憶の継承と、日本の自己イメージの発信に深く関わる問題として、南京事件の文学表象についての研究をまとめ、南京事件を素材とした榛葉英治の小説『城壁』について復刻刊行するとともに、その著者についての資料を共同での研究プロジェクトして進め、その成果をシンポジウムの形式で学会報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の拡大によって、海外での日本語資料の調査が進められず、延期を余儀なくされた。この点では、当初の予定から遅れているとは言えるが、その一方で、これまでに収集した資料、データの分析に時間をかけることができたため、研究自体は一定の進捗をみせ、その成果報告も可能となった。また、海外のみならず国内での調査にも制約はあったものの、日本国内での資料収集、調査は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
海外での調査に制約があるため、これまでの調査資料の分析や、関係してまとめてきた自身の研究を集約に注力していく。すでに本研究については、論文や研究発表の形で成果を公開してきたが、それらをもとに現段階までの研究をまとめ、著書として刊行することとしたい。本研究では日本の書物を海外に送る、という活動を第二次世界大戦期の文化外交の中に位置づけていくこととなる。その研究を通して、こうした海外への日本文化の紹介、発信事業が、日本国内における学知の再編や文化統制と密接に結びつき合い、互いに強化しあいながら展開していく容態を、具体的に明らかにしていくこととができよう。 今後、こうした方向での研究をさらに推進していくことによって、戦時下の日本国内における文化統制、文化工作についてのこれまでの研究や調査を、海外に向けた文化外交という観点から改めてとらえなおし、新たな知見を得ていくことも可能になっていくことも期待される。 むろん、海外での調査が可能となれば、これら調査をさらに補完、展開させることも可能となるため、海外における調査、研究の可能性を常に意識、準備しながら、現在の研究を進めていくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、海外で計画していた調査が困難となり旅費の使用計画にかなり大きな変更が生じた。海外での調査が可能かどうか今後の動向を注意しながら、国内における追加資料の収集、分析にあてることとしたい。
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