本研究では、主に第二次世界大戦、及びそれに至る時期の日本の対外文化工作を日本の書物の海外流通という側面から調査、研究してきた。具体的には東南アジア諸国に遺された、戦中の日本語蔵書やそれらが生まれた背景をとらえていった。タイ、シンガポール、インドネシア、ベトナムやフィリピンでの調査を実施していった。特にインドネシア、及びベトナムにおいて、まとまった文庫を見出し、その内容を目録化し、内容やその生まれた状況を解明していった。また、戦時期における海外移民地での日本語出版物の広がり、享受の事例として、ブラジルにおける日系人移民地の調査でも成果をあげることができた。 本研究ではまた、対外的な日本の文化工作のみではなく、それが国内に向けた文化統制と深い連続性をもっていた点を明らかにしてきた。このことはまた、当時の日本国内での読書指導、すなわち書物を各地に広げ、読書を指導していく活動についての調査、研究に結びついていった。この調査の中で、戦時下における読書指導に関する資料が、学校文書や図書館の業務文書からうかがえることから、それら資料の調査を進め、新たな資料の発見と整理に結びついていった。この調査は次の新たな研究課題「戦前・戦中における読書傾向調査の基礎研究」へと展開していくことが可能となった。 これら調査成果を、期間中に著書や論文、国際学会等での発表として公開していくとともに、関係する資料の整備や復刻にも携わっていった。対外文化工作の専門雑誌『東亜文化圏』の復刻や戦時下における読書調査資料の複製、刊行事業が本研究を進めていく中で可能となった。
|