本研究は、いわゆる「歌書」を主たる対象として、江戸時代に刊行された絵本と絵入本の総体を把握し、その刊行史の消長や絵師ごとの特質、さらには出版書肆との関係性などを多角的に分析し、解明しようとするもの。既にこれまで高度な達成を見せてきた江戸の絵本研究に、今般新たに歌書の領域をカバーすることを目指している。 今年度はコロナ禍の影響を受けて、国文研以外の所蔵機関における文献調査がほとんど実施できなかったものの、国文研での文献調査は順調に進捗した。加えて、『宋紫石画譜』をはじめとする画譜や江戸初期刊の二色套印本など重要な関係文献を収集することができた。具体的な研究実績は以下の通りである。 まず、KANSAKU Ken'ichi「A Study of Jikkei-ron:An Aspect of KAGAWA Kageki's Karon」(『国文学研究資料館紀要(文学研究篇)』47号、左5-45頁、国文学研究資料館、2021年3月)は、香川景樹歌論に同時代画論が微響を及ぼした可能性を指摘した英文による論文。海野圭介・小川剛生・落合博志・神作研一編「国文学研究資料館所蔵松野陽一文庫分類目録」(浅田徹ほか編『和歌史の中世から近世へ』所収、547-620頁、花鳥社、2020年)は、西川祐信絵本をはじめとして絵本と絵入本を多く含む松野文庫の分類目録で、神作は「解題」も執筆した。また、新聞など一般向けに対する寄稿も挙げておく。「江戸期にも楽しい絵本/長谷川光信画『絵本鎧歌仙』」(『読売新聞』多摩版、2021年2月3日付朝刊)、「表紙絵資料紹介『小町花あはせ』」(『国文研ニューズ』58号、国文学研究資料館、2021年1月)、「『雛本古筆絵鑑』」(『ふみ』15号、国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター、2021年1月)。
|