本研究は、いわゆる「歌書」を主たる対象として、江戸時代に刊行された絵本と絵入本の総体を把握し、その刊行史の消長や絵師ごとの特質、さらには出版書肆との関係性などを多角的に分析し、解明しようとするもの。既にこれまで高度な達成を見せてきた江戸の絵本研究に、今般新たに歌書の領域をカバーすることを目指している。 今年度も、前年度に引き続きコロナ禍の影響を受けて、国文研以外の所蔵機関における文献調査がほとんど実施できなかったが、わずかに天理参考館と関西大学博物館で資料熟覧の機会に恵まれた。加えて、絵入本『徒然草』をはじめとする重要な関係文献を収集できたのは幸いであった。具体的な研究業績は以下の通りである。 まず、KANSAKU Ken'ichi「Longing for the Refinement of the Heian Court during the Edo Period:Development of Printed Books with Kasen-e」(『国文学研究資料館紀要(文学研究篇)』48号、左13-70頁、国文学研究資料館、2022年3月)は、江戸期に刊行された歌仙絵入刊本の展開と特質を明らかにした英文による論文。国文学研究資料館の文献資料ワークショップ(2021年9月9日オンラインZOOMで開催)では、絵入本を含む歌書の全容を講義した。神作ほか和歌文学会出版企画委員会の編集にかかる『和歌のタイムライン―年表でよみとく和歌・短歌の歴史―』(三弥井書店、2021年)では、高野奈未・高松亮太とともに「近世」を担当した。なお、新聞などへの寄稿も挙げておく。「若冲、色彩の魔術師」(『読売新聞』多摩版、2022年1月19日付朝刊)、「歌麿、魅惑の狂歌絵本」(同紙、2022年3月16日付朝刊)。
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