研究実績の概要 |
2022年度においては、まずアジア太平洋戦争後における外地書店の引揚げと、戦後の内地における古書店の叢生について調査分析を行った。古書店の関連資料を用いて、東京のようす、九州のようすを簡単に素描し、外地からの引揚げと戦後の開店について大連の例、新京の例を検討した。また作家埴原一亟の短編「ある引揚者の生活」を取り上げ、戦後に古書店を開いた引揚げ者の表象を分析した。戦後の新刊書店についても目を向け、北海道北見市の例、名古屋市の例、山鹿市の例の考察を行った。以上の考察は、「外地書店を追いかける(15・終)――そしてまた本屋を開いた」と題した論考にまとめて発表した。 また南米(一部で北米を含む)の移民地の日本語書店についての論考が公刊された。これは "Chasing the Transnational Flow of Books and Magazines: Materials, Knowledge, and Network" と題した英文の論考で、_The Japanese Empire and Latin America_という論文集に収録されたものである。サンパウロの遠藤書店、アルゼンチンのリブレリーア・オリエンタルなどの個別事例を追いかけながら、1945年以前の移民地書店史を記述した。 2023年3月にはパリのINALCOにおいて「デジタル・ヒューマニティーズと日本近代文学研究──書物流通研究から出発して」と題した研究報告を行い、書物流通研究の意義を整理しつつ、近代文学研究およびデジタル・ヒューマニティーズとの接続を論じた。 調査出張に関しては、国会図書館への調査のみを行った。コロナウイルス蔓延の影響で作業が遅れていたことと、海外出張が行いにくかったこともあって、最終年度におけるまとめを優先した。
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