本研究の目的は、古典籍の本文に対して、計量文献学の方法を用い、これまで文学や文献学分野で提案されてきた古典籍の「通説」を検証する 「仮説検証」や、文学や文献学分野へ本調査結果を用いた「仮説提案」を行うことである。本研究では、(1)出版や公開されている写本(影印本)の持つ変体仮名の本文をデータとして入力し、(2)分析方法として計量文献学の複数手法を適用し、(3)年代推定と著者(書写者)推定に関する知見の蓄積を行うことを目指している。調査対象として、資料が多く残る藤原定家関連の書写資料と、源氏物語の写本を中心とし、年代や書写者の推定を試みる。
本研究のテーマは主として「年代推定の研究」「著者(書写者)推定の研究」からなる。 「年代推定の研究」では、藤原定家関連の書写資料に関する研究を行った。この研究の初期段階の研究成果は、既に学会発表及び論文発表をしている。藤原定家の書写資料の本文データ、及び藤原定家筆の資料を忠実に書写(臨模)したとされる写本の本文データの入力と統計処理をし、その調査結果を論文として発表した。 「著者(書写者)推定の研究」では、数多く残る源氏物語写本を対象に、その書写者の推定とその結果に基づく「仮説検証」 を試みた。出版や画像公開されている、入手が容易な源氏物語写本の本文データを入力し、各写本と同時代の写本や伝称筆者を同じくする写本との関係に着目して教師なし分類を試み、論文として発表した。本文データが蓄積されてきたことから、今後何らかの写本間関係の発見ができる可能性があると考えている。
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