本研究は、元来2021年度を最終年度としていたが、コロナ禍が終息せず、予定していた中国及び台湾現地での文献資料の調査が実施できなかったため、一年の期間延長を申請した。しかし延長は許可されたものの、中国では昨年も新型コロナウイルスを厳格に封じ込む「ゼロコロナ」政策を維持し、厳しい入国制限と入国後の長期間隔離を緩和しなかった(2022年末になって突如終了を宣言)。調査を希望していた台湾に至っては、両岸対立の影響で、中国大陸出身者の資料調査目的の台湾入境を未だに認めておらず、計画していた調査作業はそのため実行に移れなかった。加えて航空便も殆ど運休のままであった。結局、過去二年間と同様、期間を延長した今年度も、現地の知人に資料調査を依頼せざるを得なかった。 かかる状況の下、資料調査は困難を極めたが、最終年度では現地知人の協力で入手した新資料に、以前収集した資料を加え、基礎研究資料の分析、整理及び研究成果の公開に努めた。2023年3月発行の『中国文化研究』39号に発表した戦後中国知識人の対日観の一端を示す「戦後中国世論の対日観―亜東協会『対日和約意見』を視座に―」をもって、申請時に定めた目標(1945年から1949年にかけて上海における国民政府の対日宣伝活動・宣伝機関の実態調査、戦後中国文化人の対日姿勢及び引揚げを待つ邦人の動向とその文芸活動の究明に関する基礎資料の整備と研究)はほぼ達成することができた。 上記研究のまとめとして、日本上海史研究会と公益財団法人アジア・アフリカ文化財団主催のシンポジウム「戦後上海における対日情報戦のグレーゾーン ―『改造日報』を中心として―」(2022年11月)にて「『改造日報』とその周辺」を題に研究報告を行った。尚、成果の一つで、2022年2月にゆまに書房より出版された『戦後上海における対日宣伝機関とその刊行物 解題・細目』は2023年1月に再版された。
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