研究課題/領域番号 |
19K00366
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西上 勝 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (10189277)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 20世紀中国美術 / 継承と創造 / 中国の美術評論 |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀中国美術の流れを踏まえつつ、画論や美術評論を主たる研究対象として、20世紀に美術創作をめぐって伝統の継承と超克がどのような展開を見せたかを解明することを目的としている。2020年度においては、近年の中国近現代美術をめぐる概括的研究、Michael Sullivan“Art and Artists of Twentieth-Century China” (1996)や呂澎『20世紀中国芸術史(第三版)』(2013)などの先行研究を踏まえ20世紀前半期において「美術」とりわけ中国画を主とする絵画について旧形式と見なされた技法がいかに継承され、どのような変容が希求されたのかに関心を絞り、収集した資料を材料として考察を進めた。前年度の研究報告「二十世紀三十年代中国の旧形式をめぐる美術評論について」の着眼点を基に、20世紀初頭から30年代日中戦争勃発に伴う美術関連事業中断までの期間、中国の美術界でどのような動きが見られたかを解明することに取り組んだ。こうした観点から、1929年に初めて政府主導の全国美術展が開催された事実に着目し、全国美術展の前後における美術関連の評論について考察を進めた。その成果は論考「屈曲する美術 1929年中国第一回全国美術展覧会前後の美術評論について」(『山形大学人文社会科学部研究年報 第18号』2021.2発表)にまとめた。この時期、いかなる経緯をたどって「美術」という概念が中国社会に定着したか、20年代以降の美術展開催にはどのような意図があり、開催後どのような反響が見られたかを、具体的に考察した。中国における全国美術展は、現在に至るまで、主催者の変更を伴いつつ断続的に開催されていくことになるが、その後の中国美術における種々の係争点を、この初回の全国美術展がすでに胚胎していたことを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究期間の中間にあたる2020年度においては、 ① 関連文献資料の調査収集と検討評価 ② 新たに収集した資料に基づく、中国美術における継承と創造に関わる具体的テーマに沿った考察 ③ 20世紀に制作された絵画作品の実見、現代中国における20世紀絵画創作の展示様態と受容情況の調査 本研究は、本来この三項目を三本の柱として設定し、研究を進める計画であった。このうち、①と②については、上記実績の概要に記した通り、一定の進捗を見た。中国近現代美術の流れの再検討は、中国大陸及び台湾で現時点において、精力的に進められており、上に記した呂澎氏の業績のほか、中国語圏において、20世紀80年代以降の新芸術思潮とりわけ85年美術運動を契機とし、新たな評価が示されている。中国画領域においても、50年代に逝去した中国画家の斉白石や黄賓虹らの再評価が進められ、彼らを含めた画家達の遺産の再評価とその超克を目指す動きが、中国画ばかりでなく芸術諸ジャンルで、試みられていることが伝えられている。こうした20世紀後半における中国美術の動向を踏まえ、その継承と創造の意義を、今後さらに具体的に追求する必要があると考えるに至った。 しかしながら、③に記した今日的情況を実見することは、本来、本研究にとっては不可欠な要素であるにもかかわらず、研究発表や中国語圏における実地調査は、これまで国内及び国外旅費の予算を計上していたものの、新型コロナウイルスの世界的蔓延の影響により、実施できていない。これは、本研究の推進上に大きな障害となっている。2021年度においても、新型コロナウィルス蔓延の影響を受けることが避けがたい情勢だが、次項に記すような方策により対処したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間の最終年度に当たる2021年度においては、現時点での進捗状況を踏まえ、20世紀後半期の中国美術の動向をできる限り視野に収めた上で、中国現代美術の変遷史の独自的概括を進めるとともに、中国における美術概念の受容と変遷という視角から、絵画を中心とする中国芸術に関する美術評論の意義について、さらに考察を具体的に進める。 前項に記したように、先ず関連文献資料の収集及び分析検討に、今年度も継続して努める。 と同時に、今後、国内及び海外へ移動する環境が改善されれば、昨年度までの進捗における課題の解決に取り組みたい。特に、中国語圏における美術創作の受容のあり方を具体的に知るための実地調査は欠かせない。しかし、2021年度においては新型コロナウィルス蔓延の影響が依然として続くことが予想されることから、実地調査が困難である場合にはネット上の関連情報を博捜することに、さらに注力したい。特に、中国語圏の近現代美術を主たる展示内容とする主要な機関、たとえば2012年に開館した上海・中華芸術宮や台湾・台中の台湾国立美術館などの機関について、ネット上の情報を精査することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では、中国語圏で企画実施されている20世紀中国画家の展示や受容のあり方を、可能な限り中国語圏各地の所蔵機関への現地調査によって、情報及び資料収集を進めることにしていた。そのための外国旅費として、前年度まで毎年16万円ほど予算計上していた。一昨年度には、上海、杭州や台湾への渡航も、年度後半に実施する計画を立てたが、折からの新型コロナウィルスの蔓延により、渡航が困難になった。またその後の環境緩和状況下にあっても、計上していた予算額では、渡航費用に充当することができなくなってしまった。 前年度までの経費に計上していた旅費が未使用であることにより、次年度予算額が増加する結果となった。
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