本研究は、北宋・蘇軾の詩詞・書簡テクストと文集編纂について、当時の文人社会の圏域・ネットワークと関連づけながら考察することを目的とし、(1)蘇軾の書簡と文集に関する文献学的研究、(2)蘇軾の詩詞と書簡の相互連関に関する研究、(3)蘇軾の書簡と奏議・詔勅・策論との比較研究の三つを基軸として実施する。 全研究期間の最終年度にあたる本年度は、上記(1)の研究については、南宋における蘇軾文集、特に『東坡外集』について引きつづき考察を加えた。(2)の研究については、詩詞テクストの交換・流通の実態を当時の文人社会の圏域・ネットワークとの連関に重点を置いて検討することに重点を置いて実施した。特に、詩詞が書簡を代行するテクストとして交換されるケースに着目して考察した。具体的には、弟の蘇轍との詩の交換を取りあげ、その状況を整理するとともに、南宋の文人陸游のケースと比較しながら、その特質を明らかにしようと試みた。 (3)の研究については、引きつづき陸游との比較を中心に初歩的な考察を行った。 上記研究を通して最終的には、蘇軾文学の理解のためには陸游との比較に注力する必要があることを認識するに至った。蘇軾・陸游の比較研究の成果の一部は、「父と子―蘇軾・陸游の詩における「孝」をめぐって―」と題する論文として公表した。
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