研究課題/領域番号 |
19K00375
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小松 謙 京都府立大学, 文学部, 教授 (00195843)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水滸伝 / 訳注 / 校勘 / 金瓶梅 / 水滸伝と金瓶梅の研究 / 詳注全訳水滸伝 / 金聖歎 / 批評 |
研究実績の概要 |
本課題の主たる目標である詳細な注釈と完全な校勘記を伴う『水滸伝』の全訳を推進するとともに、『水滸伝』及び同書と深い関連を持つ『金瓶梅』に関わる研究を進めた。 2018年度まで助成を受けていた課題「『水滸伝』本文の研究」の成果をまとめるとともに、今回課題の成果をも加味した著書『水滸伝と金瓶梅の研究』を、日本学術振興会研究成果公開促進費の交付を受けて、汲古書院から11月に刊行した。同書は従来明確な結論を得るには至っていなかった『水滸伝』諸本の関係について、全文の完全な校勘に基づいてその継承関係を明らかにし、更にその結果を踏まえて、『水滸伝』の本文がなぜ、どのように変化していったかを、文学・語学などの多様な面から明らかにするとともに、やはり長期にわたって論争の的となってきた『金瓶梅』の創作動機とその作者について、本文の内容に依拠して明快な結論を示したものである。 同書の内容は、そのまま現在進行中の『水滸伝』訳注に直結するものである。同書をまとめるのに並行して訳注作業も推進し、夏には第一巻分の訳稿をまとめ、『詳注全訳水滸伝』として汲古書院より刊行の予定であったが、コロナウィルス等の影響により出版作業が遅れ、2020年度中に刊行することはできなかった。しかし、現段階ですでに再校段階にあり、夏までには第一巻を刊行する予定である。 更に、第二巻分の訳注もすでに完成済みであり、現在は第三巻分の訳注作成に入っている状況にあって、順次刊行していく予定である。これらの訳注は、単なる注釈ではなく、主要版本すべての完全な校勘記と、容與堂本・金聖歎本の文中に附された大量の批評の完全な翻訳をも含んでおり、日本はもとより、中国においてもかつて例を見ない高度な水準にある画期的なものであり、訳文も原文の口調を忠実に再現することを目指した斬新なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度まで助成を受けていた課題「『水滸伝』本文の研究」の成果であり、かつ本課題とも直接的な関わりを持つ著書『水滸伝と金瓶梅の研究』を日本学術振興会研究成果公開促進費の交付を受けて刊行した。これは連続性のある課題の内容を着実にまとめ、社会に還元することができたことを意味し、その内容を踏まえた本課題の進行の上でも重要な意味を持つものである。あわせて、この内容を踏まえた講演を東京大学のシンポジウムで行い、オンラインの形で多くの人々に成果を還元した。 あわせて、白話文学研究という点で関連する敦煌変文研究会の活動も進め、研究会メンバーと共著の形で二篇の詳細な訳注を発表した。 更に、本課題の主たる目的である『水滸伝』訳注の作成を着実に進め、すでに第一巻は近日中に刊行される予定であり、第二巻についても原稿はすべて完成しており、続けて刊行することが可能な状況にあって、現在はすでに第三巻の訳注作成に着手してる。これらは単なる注釈ではなく、そこで展開されている議論は論文何本かにあたるものである。また容與堂本・金聖歎本に附されている批評の全訳をも含んでおり、これはかつて例のない試みであって、しかも後者の分量の多さと難解さから考えれば、非常に時間を要する作業であることは言を俟たない。 これらの点を勘案すれば、本課題の現在の進行状況は、当初の予定を大幅に上回っているものと認められる。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の『水滸伝』訳注作成を更に進める。資料を収集して可能な限り多くの文献に当たるとともに、すでに実施した『水滸伝』諸本の校勘についても、より鮮明な写真・データ・影印等を入手することにより、全面的に確認しながら作業を進める。完成した訳注稿は、順次出版し、成果を社会に還元していくことを目指す。 更に、校注作成の過程で浮上してくる様々な問題について考察を進め、関連の深い『金瓶梅』などの周辺文献も視野に入れつつ、社会的背景をも考慮に入れて、白話小説が生まれ、刊行され、展開していく過程、その刊行主体や読者層についても研究を行う。 以上の研究を進めることにより、作品自体に密着した上で、不特定多数の読者のために、俗語を用いた小説を制作し、刊行するという行為がいかにして生まれ、展開したか、ひいては「読書」という行為がどのようにして生まれ、広まっていったかという、中国に限定されることのない普遍的な問題に対する答えを得ることを求める。 あわせて関連領域として敦煌変文研究会の活動も継続して進め、「金剛醜女因縁」訳注の完成を目指す。
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