本研究課題の最も主たる目的である『水滸伝』の訳注として、2021年8月に『詳注全訳水滸伝』第一巻を汲古書院から刊行した。同書は『水滸伝』の第六回までについて本文を全訳し、更に詳細な注を附したものである。注においては、主要6種のテキスト間に見られる異同を原則として全部指摘し、そのすべてについて異同が生じた原因を考察するとともに、容與堂本・金聖歎本に見られる批評を全訳し、更に文中に見える難解な語や官職制度に詳細な注を加え、また踏まえる典故なども可能な限り指摘した上で、物語の成立過程などについても詳しく考察を加えたもので、日本はもとより、中国を含めた国外においてもこれまで例のない水準の注釈といってよい。 更に第七回から第十三回までを収める第二巻、第十四回から第二十回までを収める第三巻の訳注をも2022年度中に完成させ、同年度中の刊行を目指していたが、コロナウィルス流行の影響で、出版社の事業に遅れが生じたため、年度中の刊行はできなかった。第二巻は2022年4月に刊行され、第三巻も現在刊行準備中である。これらは、本研究期間を通じて行ってきた研究の成果であり、当初予定していた計画を上回るペースで進行しているものである。また、東京大学附属図書館U-PARL協働型アジア研究企画「東京大学所蔵水滸伝諸版本に関する研究」にも参加し、同企画の研究会に参加した。その成果は近日中に刊行される予定である。 以上のように、申請時に計画していた事業を着実に進めているほか、関連する研究として、本研究課題の重大な要素である中国白話文の成立過程探求の上で重要な意味を持つ敦煌変文の研究を進め、主催する敦煌変文研究会の成果として、「「金剛醜女因縁」訳注」の(二)(三)を井口千雪ほかとの共著の形で発表し、同作品の訳注を完成させた。
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