研究課題/領域番号 |
19K00376
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
柳川 順子 県立広島大学, 地域創生学部, 教授 (60210291)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 曹植 / 漢代宴席文芸 / 建安文学 / 楽府詩 / 五言詩 / 『三国志』 / 魏晋文学 |
研究実績の概要 |
三国魏の文学は、漢代の宴席において生成展開してきた詩歌等の文芸を、個人の思いを詠ずるに足る文学様式へと昇華させた点で画期的である。中国の文学史上、特筆すべきこの魏の文学について、本研究は、この時期では最も多くの作品を残している曹植という文人を視野の中心に置き、魏の文学が旧来の宴席文芸と何が異なっているのか、その質的転換は何に由来するのか、といった観点からその実相を探っている。このようなテーマに沿って、本研究の4年目となる2022年度は、次のような実績をあげることができた。 まず、丁晏『曹集詮評』を底本とする曹植作品のデータベース化は、全十巻の校訂をひととおり終えた(前年度は巻五まで)。 「曹植作品訳注稿」は、「離友 有序 二首」「喜雨」「矯志」「閨情 二首(其二)」「娯賓賦」「黄初五年令」「黄初六年令」「写潅均上事令」「謝初封安郷侯表」「封〓ケン城王謝表」「上先帝賜鎧表「上牛表」「献文帝馬表」「龍見賀表」「雑詩 二首(其一)」「妾薄命 二首(其一)」について、解題、本文、訓み下し、語釈、通釈を作成し、報告者が運営するホームページ上に公開した。 以上のような基礎的作業の上に、本年度は特に、黄初年間における曹植の動向を明らかにし、この時期の彼の作品に現れた文学的特徴を探った。黄初年間は、曹植の兄の曹丕が魏の文帝として即位し、二人の間に緊張関係が生じたとされる時期であり、この間の出来事が、曹植の文学活動に深い影響を及ぼしたであろうと推測されるところである。また、曹植文学の画期性について、彼の詩に特徴的な表現が、直接的には面識のない、続く時代の人々へと波及している事例の一端を示し、それが個人の内面的な共感に由来するものであることを論じた。曹植作品を起点とするこうした現象の中に、魏の文学における漢代宴席文芸からの脱却と質的転換を見て取ることができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」に示した実績と、現況に対する以下のような自己評価から、現在までの進捗状況としては、やや遅れていると判断した。 ・『曹集詮評』を底本とする曹植作品のデータベース化は、本文のテキスト入力、及び諸文献と照らし合わせての校訂作業がひととおり完了し、ある程度の目途が立ったと言える。ただし、これから校訂の確認作業を重ねていく過程で、表記の統一といった問題が浮上してくる可能性があるため、完成までにはなお一年程度の時間が必要だろうと予想される。 ・「曹植作品訳注稿」は、作品の総量から見て、また、訳注という作業の特性からしても、ひととおりの完成までにはなおかなりの時間を要すると思われる。当初予定していた研究期間を超えて、作業を継続する必要があるだろう。 ・曹植作品を中心とした、中世初期における文学の質的転換に関わる研究については、論文化が見込める考察内容が蓄積されている。また、今後の研究の進展に伴い、それは更に増えていくだろうと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記した自己評価を踏まえ、以下の作業を継続的に進めてゆく予定である。なお、研究の方向性については、今のところ抜本的見直しを要するような事態は起きていない。 ・『曹集詮評』のテキストについて、校訂の確認作業を終え、データベース化して、報告者の運営するホームページ上に公開する。 ・「曹植作品訳注稿」は、今後の研究における最優先課題として作業を進める。 ・曹植文学に関する研究としては、中世初期における文学の質的転換という視点から更に考察を深め、論文にまとめて公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた研究会や学会がオンラインによる開催となったため、旅費を使用することがなかったため。繰り越された研究費は、ホームページの充実や論文の翻訳にかかる謝金などに充てる予定である。
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