研究計画書を作成した当初に、中国の杭州・建陽・上海に赴いて現地調査を行う予定であるが、新型コロナウイルス感染症の影響により、中国への渡航ができなかったため、研究期間は1年間を延長した。今年度の年度末には新型コロナウイルス感染症による行動制限を緩和され、中国への渡航ができるようになったため、2023年3月に上海と杭州へ赴いて研究対象である関連刊本の調査を実施した。上海図書館においては、容与堂刊の『李卓吾先生批評北西廂記』全本と残本を複写し、杭州市にある浙江省図書館においても、『李卓吾先生批評北西廂記真本』などの関連刊本を確認した上、改めて宮内庁書陵部に所蔵する『李卓吾先生批評北西廂記』との比較考察を行い、各刊本の版式や表現の異同を解明した。 三槐堂刊『李卓吾先生批評西廂記』と游敬泉刊『李卓吾批評合像北西廂記』の旧蔵者である塩谷温が明刊本『西廂記』を入手した経緯及び研究の状況、そして二年間あまりにわたってドイツ留学の実態を究明するため、当人の著作『支那文学概論講話』と回顧録『天馬行空』及び高足であった倉石武四郎や長沢規矩也などの文集、年譜・評伝などを含む雑誌『東京支那学報第9号/故塩谷節山先生を偲ぶ』『斯文第36号/節山塩谷温先生追悼号』『東洋文化第9号/塩谷温追悼号』、勤務先の東京帝国大学の『東京帝国大学学術大観』『東大百年史』などの関連文献を調査して研究を進めた。 以上の調査研究の成果として、「游敬泉刊『李卓吾批評合像北西廂記』について」・「日本天理圖書館藏《重校北西廂記》考略」・「著名漢学家塩谷温旧蔵孤本《李卓吾批評合像北西廂記》考略」・「著名漢學家塩谷温留學德国考述」と題して、研究発表を行った後、論文をまとめて公刊した。
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