研究実績の概要 |
ヴィクトリア朝に一世を風靡した週刊漫画雑誌である『パンチ』に関わる基礎研究を踏まえた上で、イギリスの漫画図像の源流に位置付けられる18世紀のホガースの研究に進んだ。本科研の研究期間(令和元年度から同4年度)の後半は、特にホガースの図像とその背景をなす、当時のイギリスの民衆文化の様々な事物の研究に取り組んだ。研究成果は、以下にまとめることができる。 (1)ホガースの版画は、漫画の基盤となる「コマ割り」を有しており、ホガースは、のちの漫画の祖型である。(2)ホガースの時代の貨幣価値。この領域は、本研究が提示する斬新な知見である。ホガースの版画が売られていた時代(18世紀前半)の1ポンドは、等価物の比較考察などから、 日本円で約42,000円と推定できる。たとえば、六枚セットのホガースの版画の値段(1ギニー)は今の44,000円となる。(3)ホガースの版画に頻出する「乳房」の意味の解明。ホガースは性器の描写を超えてはならない一線として自重していたが、当時の版画の購買者が熱望していたエロス的需要に応えるものとして 「乳房」の要素を高い頻度で組み込んだ。(4)ホガースは西洋の伝統的な絵画である「歴史画」のパロディ(模倣によるからかい)を頻繁に利用した。換骨奪胎された典型的なトポス(主題)は、「聖母子像」と「ピエタ像」。(5)以上の研究をまとめ、2023年の3月15日に山形大学出版会から著書『ホガースの時代―版画で読むイギリス』(258頁)を出版した。
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