研究課題/領域番号 |
19K00388
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 光 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80296011)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウィリアム・ブレイク / W. H. ハドソン / 寿岳文章 / 比較文学 / 比較文化 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、ウィリアム・ブレイクのテクストに現れた自他共生思想とウィリアム・モリスの社会改革運動との関わりを探究することにあり、大英図書館で一次文献を調査し、大英図書館内で利用できるデータベースと電子ジャーナルを活用することを前提としていた。しかし、コロナウィルスの世界的な蔓延のために、前提としていた作業を行うことが事実上不可能になったので、方針を転換し、ブレイクとモリスの両方に取り組んだ日本人研究者として寿岳文章の仕事に注目し、自他共生思想の比較研究を行うことにした。 寿岳文章は1973年に『自然・文学・人間――W・H・ハドソンの出発』を出版した。寿岳文章はエドワード・ガーネット編『ハドソン詞華集』を購入して英語の教材を作成し、関西学院の授業で用いた。寿岳しづは、ハドソンの少年の日々の回想録『はるかな国とおい昔』を翻訳し、『ラ・プラタの博物学者』や『博物学者の本』の抄訳も手がけた。 W. H. ハドソン(William Henry Hudson, 1841-1922)は、アルゼンチンからの移民として英国へ渡り、鳥類愛護運動家として活動した作家である。なぜ、ブレイク研究者であった寿岳がハドソンに関心を持ち続けたのか、という問いを設定し、ハドソンの著作、ハドソンに関する先行研究、寿岳夫妻がハドソンについて書き残したテクストを調査した。その結果、ハドソンがブレイク愛好家であり、ブレイクの影響下で作家活動を行っていたことが判明した。調査結果を論文「W. H. ハドソンの共生思想と寿岳文章――ウィリアム・ブレイクの系譜の上で」にまとめ、寿岳文章の研究団体である特定非営利活動法人向日庵の機関誌『向日庵』第5号(2022)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ・ウィルスの蔓延と渡航制限等のために研究計画を修正したが、寿岳文章とW. H. ハドソンについて調査をしたところ、ハドソン関連の資料を精査することによって、従来注目されることのなかったハドソンとブレイクとの関連を明らかにすることができた。寿岳が編纂した『ヰルヤムブレイク書誌』(1929)に作家ハドソンの著作は登録されていない。その後にG. E. Bentley Jrが刊行した一連のブレイク書誌、A Blake Bibliography (1964)、Blake Books (1977)、Blake Books Supplement (1995)にも見当たらない。今回の発見は、ブレイク受容史における新しい貢献になるものと思われる。 ハドソンの著作にちりばめられたブレイクからの引用と、ハドソンの伝記的事実をもとに、ハドソンがブレイクの『無垢の歌と経験の歌』を愛読したことを立証することができた。また、ハドソンがブレイクに関心を持ち続けたのは、ハドソンが人と自然との共生のあり方を探る手掛かりをブレイクに見出したからである、ということも明らかにすることができた。本研究では「ウィリアム・ブレイクとウィリアム・モリスにおける自他共生思想の比較研究」をテーマとして掲げており、ブレイクとハドソンと寿岳文章を共生思想という一本の線でつなぐことができたのは、予想外の収穫である。当初の計画では想定していなかったが、思わぬ形で進展を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ウィリアム・ブレイクとウィリアム・モリスの両方に関心を持った思想家として、鶴見俊輔に注目する。鶴見俊輔、ウィリアム・モリス、ジョン・デューイ、限界芸術、柳宗悦を手掛かりに調査を進める。詳細は論文の構想と連動するので、ここでは記述を控える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画に組み込んでいた英国での調査研究が、事実上不可能になったことにより、海外渡航費として予定していた予算を、国内で入手可能なウィリアム・ブレイク、ウィリアム・モリス、W. H. ハドソン、ブレイクの影響下にあった挿絵画家ウォルター・クレイン、ブレイクとモリスを研究した柳宗悦と寿岳文章関連の資料収集に当てたために、次年度使用額が発生した。コロナウィルスとヨーロッパでの戦争が収束するようであれば、英国での調査を行いたいが、ジョン・デューイと限界芸術関連の資料の収集と分析を国内で行うことになるかもしれない。
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