研究課題/領域番号 |
19K00389
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井川 ちとせ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20401672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英文学 / 受容論 |
研究実績の概要 |
本研究は、英文学研究において過去約90年間にわたり提示されてきた作品の受容をめぐる諸理論を、批判的に再検討し、ある特定の歴史的・文化的文脈において文学テクストが意味を成すとはいかなる現象であるかを多角的に問うものである。 2020年度中に『言語文化』(第57巻)に投稿した「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例(1)ー」の続編として、2021年度は「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例(2)ー」を『言語文化』(第58巻)に発表した。本論では、参与観察をおこなったTグループの3回の読書会に焦点を絞り、メンバーがどのような読みの戦略を用いているか具体的に分析した。とくに2016年3月の読書会で取り上げられたMark Lawson, _The Deaths_(2013)については、テクストを詳細に検討しつつ、読書会メンバーが「現代の英国をよく映し出している」と認めるのはいかなる表象であるか、ヘイドン・ホワイトやメアリー・プーヴィ、ミハイル・バフチンらの批評を手がかりに検討をおこなった。 また、英国の出版文化において、一般読者とテクストとが複数の行為体によっていかに媒介されているかを明らかにするため、一般読者向けの紙媒体の季刊誌二誌、インターネット上の一般読者によるレビュー、書店や版元、作家が主催するウェブサイトにおける主催者と読者および読者同士の交流などの分析をおこなった。この分析は、本研究の最終年度まで継続的におこなうものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査への協力依頼を検討している方々と電子メールでの交流をおこなったり、資料の提供を受けたりしているものの、新型コロナウィルスの感染拡大により、参与観察やフォーカス・グループ調査などをおこなうための具体的な準備を進めることは叶わなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度後半、新型コロナウィルスの感染収束により、英国での現地調査が可能になった場合には渡航して参与観察などをおこないたいが、未だ見通しは不透明であるため、引き続き、理論的分析にも注力する。具体的には、『言語文化』第57巻および第58巻に発表した「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例」の完結編として、事例研究の蓄積を踏まえ、受容論が陥りがちなテクスト生産者と読者との二元的権力モデルに代わる新たな理論を構築することを目指す。その成果は、2022年12月刊行予定の紀要『言語文化』第59巻に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査の実施と国際学会への参加が叶わず、旅費を支出しなかったため。新型コロナウイルス感染拡大が続くあいだは、渡航計画を延期せざるを得ないため、2022年度は主に資料収集に支出する予定である。
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