研究課題/領域番号 |
19K00389
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井川 ちとせ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20401672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英文学 / 受容論 |
研究実績の概要 |
本研究は、英文学研究において過去約90年間にわたり提示されてきた作品の受容をめぐる諸理論を、批判的に再検討し、ある特定の歴史的・文化的文脈において文学テクストが意味を成すとはいかなる現象であるかを多角的に問うものである。 2022年度は、2020年度より『言語文化』に連載している「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例」の第V節「新自由主義体制下の文学生産と需要のセラピー的転回?」を同誌第59巻に発表した。研究代表者が2014年より継続的に参与観察と情報収集をおこなっているグループの読書会のなかで、唯一、エンカウンターグループ(集団感受性訓練)に似たアプローチが取られた回に焦点を絞り、メンバーが、フィクション作品がリアリスティックであるか否かを判定する際に何をおこなっているのか、テクストが映し出すとされる現実にいかに接近しているのか、テクストを用いて何をおこなっているのかを考察した。 2022年度はさらに、編著者として『ブライト・ヤング・ピープルと保守的ー英国モダニズムの延命』(小鳥遊書房)を刊行した。単著部分の第2章「ディアギレフ的でリーヴィス的ーシットウェル三姉弟のモダニズム」において、公/私、正規/非正規教育、ハイ/ミドルブラウなどの境界を厳格に管理しようとする学的制度の展開と、一般読者による文学作品の受容を、歴史的文脈において捉え直した。 また、英国の出版文化において、一般読者とテクストとが複数の行為体によっていかに媒介されているかを明らかにするため、一般読者向けの紙媒体の季刊誌二誌、インターネット上の一般読者によるレビュー、書店や版元、作家が主催するウェブサイトにおける主催者と読者および読者同士の交流などの分析をおこなった。この分析は、本研究の最終年度である2023年度末まで継続的におこなうものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査への協力依頼を検討している方々と電子メールでの交流をおこなったり、資料の提供を受けたりしているものの、新型コロナウィルスの感染拡大の余波で、参与観察やフォーカス・グループ調査などをおこなうための具体的な準備を進めることは叶わなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、英国に渡航して参与観察などをおこなう予定であるが、引き続き、理論的分析にも注力する。事例研究の蓄積を踏まえ、受容論が陥りがちなテクスト生産者と読者との二元的権力モデルに代わる新たな理論を構築することを目指す。『言語文化』第57、58、59巻に発表した「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例」に大幅な加筆を施し、書籍にまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査の実施と国際学会への参加が叶わず、旅費を支出しなかったため。2023年度は最低2度、英国での現地調査を実施する予定である。
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