研究課題/領域番号 |
19K00391
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上原 早苗 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00256025)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 草稿研究 / 書誌学 / (自己)検閲 |
研究実績の概要 |
研究者の間には、ハーディがJude the Obscure執筆時に出版社の検閲を受け、性的な挿話・表現の多くを削除・修正せざるをえなかったとの言説が流布しているが、本研究は、この小説の創作過程を検証することにより、従来の説には解消されえない、出版社への抵抗ともいうべきハーディの改変作業に光を当てることを目指している。 具体的には、今年度はJude the Obscureの原稿377葉のうち270葉までをマイクロフィルムのかたちで収蔵館から入手して日本で解読作業に従事した。目視で判読不可能な箇所は、デジタル画像を注文してパコソン上で拡大化された画像により解読作業を進めた。また、Jude the Obscureに施された改変の背景として当時の書籍の流通制度の問題があるため、昨年度から当該制度に関するリサーチを主としてロンドンの大英図書館にて行ってきた。その成果は、「書籍の流通制度改革に向けて」として纏めた(『ハーディ研究』第45巻、2019年)。 ハーディの原稿には黒インク、青インク、黒鉛筆、青鉛筆が使用され、筆記具の違いが執筆段階の確定の手がかりとなるが、しかし、マイクロフィルムやデジタル画像では黒インクと黒鉛筆の区別や黒インクと青インクの違いなどが判別しにくい。したがって、ハーディの執筆段階の確定には伝統的な目視作業が欠かせないのだが、新型コロナウイルス感染拡大のため春季休暇中に予定されていた渡英は叶わなかった。 現在は2019年度に解読に成功した箇所をJude the Obscure読解に反映させながらJude the Obscure論を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は予定どおり、ハーディの自筆原稿をマイクロフィルムの形で収蔵館から入手し、解読作業を終えることができた。またJude the Obscureに施された改変の背景として、当時の書籍の流通制度の問題があり、この点を明確にしておく必要があるため、2019年度は当該制度に関するリサーチを主としてロンドンの大英図書館で行い、その成果を「書籍の流通制度改革に向けて」として纏めることができた。改変の背景に迫る研究や原稿の解読作業は順調に進展したと言える。 しかしながら、執筆段階の確定作業に関しては、春季休業中に予定していたイギリス出張を断念せざるをえなかったため、目視調査によるJude the Obscureの原稿の執筆段階の確定作業は遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
1)原稿の解読:2020年度はハーディの自筆原稿のうち、第271葉から第377葉までをマイクロフィルムのかたちでフィッツウイリアム博物館から入手して解読する。 2)執筆段階の確定:ハーディの原稿は執筆段階により、黒インク、青インク、黒鉛筆、青鉛筆などの異なる筆記具が使用されており、マイクロフィルムでは筆記具の違いが判別不可能な箇所が少なからずある。原稿の収蔵館のフィッツウイリアム博物館に赴いて、目視調査による筆記具の確認が執筆段階の確定作業には不可欠となる。未だに新型コロナウイルスが猛威を振るっているため、当分、渡英できそうにないのが不安材料だが、渡英の環境が整い次第、現地調査を実施する。 3)研究成果の発信:2020年度は研究成果の一部を纏めて国際ハーディ学会大会(イギリス、ドーチェスター)で発表するつ予定だったが、コロナ禍により学会が中止となる可能性が高い。状況を見極めつつ、日本英文学会・シンポジウム「進行中の作品ーー文学作品の執筆過程を考える」(於岐阜大学)にて研究成果を発信することも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、3月に予定していた渡英が急遽中止となったため、渡航費、印刷費などを次年度に繰り越すこととなった。渡英できる環境が整い次第、現地調査を実施する。
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