研究課題/領域番号 |
19K00393
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 名誉教授 (80164698)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | デイヴィッド・ジョーンズ / イギリスのカトリシズム / T.S.エリオット |
研究実績の概要 |
本年度はジョーンズの傑作The Anathemataを読み解き、カトリック神学とその信仰感覚がいかに詩として昇華・結晶化されるか、その究明および理論化を試みた。 第一次世界大戦の従軍体験を経て20年代にカトリシズムに改宗したジョーンズは、第二次世界大戦後に発表されたThe Anathemataにおいて、現代の事象と西洋古典や北欧・ケルト神話とアナロジーで結びつけて提示し、人間の想像世界の普遍性を示そうとしている。この手法はモダニズム文学に共通すると言え、In Parenthesisと同様、神話学や文化人類学の研究成果を作品創造に取り込む姿勢が顕著である。 しかしThe Anathemataが真にキリスト教モダニズムの傑作とされる所以は、キリスト教の神学概念である「アナムネーシス」の詩であるからである。アナムネーシスとは十字架上のキリストによって捧げられた犠牲の「現前化」(re-presentation)を意味し、ミサで行われる「聖体の秘跡」がその中心を占める。だからこそ「捧げもの」を意味するAnathemataの最終部において、最後の晩餐におけるイエスの聖体制定、ゴルゴタの丘における神の子羊として自らを捧げる受難、そしてそれ以後、その救いの業を「記念」として繰り返してきた教会のミサが描かれるわけである。すべての人類の救済とアナロジカルに交わる事跡を取り込みながら、ジョーンズ詩学は感謝の祭儀Eucharistiaを中心に、アナムネーシスと文字という「しるし」による表現(representation)とを重ねあわせ、歴史・現在・未来をつなぐ一点(here and now)としての詩を構築している。 ジョーンズを推奨し、第一次世界大戦の『荒地』認識など、深い影響を与えたエリオットについての論文と、トロイに始まる救済神話をキリスト教の救いの観点から論じた論文を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
この研究の本来の目的は、ジョーンズの大作In ParenthesisとThe Anathemataの両編を日本語に翻訳することであった。その意味で、翻訳が完成させられない事実を評価するならば、残念ながら上記に区分するほかない。実際に翻訳の準備研究にとりかかると、予想された以上に難易度が高いことを思い知らされたこと、また大きな助けになると期待されていたジョーンズ研究の世界的権威であるDilworth教授の助言を得る機会が、コロナ禍にあってうまく調整できず、独力で進めなければならなかったことが反省される。
|
今後の研究の推進方策 |
幸いもう一年研究時間を延長していただけることになったので、当初の予定を実現するべく本年6月にカナダに出張し、Thomas Dilworth教授と対面で難解な個所等について教えを乞うことが可能となった。したがって遅れている研究も進捗することが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くになり予算執行を考えた際にもう一年研究期間を延長できる可能性があることが判明し、当初の計画通りにジョーンズ研究第一人者であるDilworth教授の教えを乞うためにカナダ出張を計画している。
|