最終年度は昨年度に続きジョーンズのThe Anathemataを読み解き、カトリック神学とその信仰感覚がいかに詩として昇華・結晶化されるか、その究明および理論化を試みた。ジョーンズの最重要作品である『アナセマタ』が現代詩のあり方を革命的に変えたT.S.エリオットに認められW.H.オーデンに絶賛された理由は、彼らがともにキリスト教正統への回心者であり、世俗主義的幸福を追求するのみで超越的価値を喪失した近・現代の文学が、個人の心情にその中心を置いていることに不満を感じていたからである。人間が人間であるために、また人間が人間である限り、「ものを作る者」という本性的特徴から逃れることはできない。ジョーンズ詩学の核心は、この人間が根源的にアーティストであるという認識から出発し、その時空を超えた予型をカトリシズムの秘跡、特にパンとぶどう酒をキリストの聖体となるという実体変化に見すえることにある。聖体の秘跡が持つ「過去と現在の共時性」という特質こそが『アナセマタ』の中心をなす。秘跡とアート、司祭とアーティストとは類比関係にあるといえる。詩と、キリストから教会に付託された神秘である秘跡との同質性を主張するジョーンズ詩学から、アヴァンギャルドとして理解されてきたモダニズム文学の実質は、個人的情緒から逃れ正統を希求する反近代主義(アンチモダニズム)であり、背景にはキリスト教神学、特にカトリシズムのドグマがあることが理解された。『アナセマタ』は神による天地創造から、前史時代、神話時代から現代まで、時空を超えて「作ること」の喜びを語っており、アンチモダンなモダニズム詩の代表といえるだろう。 ようやくコロナ禍が終わり、ジョーンズ研究の第一人者であるトマス・ディルワース教授(カナダ、ウィンザー大学)に面会、研究指導を受けることができたことは幸いであった。
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