研究課題/領域番号 |
19K00395
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高橋 勤 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (10216731)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘンリー・ソロー / サミュエル・モース / アイルランド人表象 / ネイティヴィズム / 電信技術 / 想像の共同体 / ノーナッシング党 / 陰謀論 |
研究実績の概要 |
令和2 (2020)年度の研究計画は、前年度に考察したサミュエル・モースの反カトリック思想および陰謀論的な政治レトリックの研究をふまえて、一九世紀のアメリカ文学に表された反カトリックの移民排斥思想、あるいはネイティヴィスト的レトリックの分析に研究を進めることである。より具体的には、ヘンリー・ソロー『ウォールデン』や日記にみられるアイルランド人表象の分析、『コッド岬』に描かれた移民船セント・ジョン号の座礁事件の歴史的考察、さらにはメルヴィル『レッドバーン』に描かれたアイルランド移民の窮状等、アメリカン・ルネサンス文学に描かれたアイリッシュ表象を考察することであった。 すでに2019年度に「モールス信号の政治学―ソローと一九世紀ネイティヴィズム思想」という論考を共著書のかたちで発表しており、令和2年度ではさらにネイティヴィズム思想にまつわる陰謀論に関して巽孝之著『パラノイドの帝国』の書評を日本ソロー学会の学会誌『ヘンリー・ソロー研究』に、また吉川朗子・川津雅恵編『トランスアトランティック・エコロジー ロマン主義を語り直す』の書評を日本アメリカ文学会の学会誌『アメリカ文学研究』にそれぞれ発表した。 またソロー研究に関連する当該年度の研究実績としては、英文の依頼原稿“Thoreau’s Confucianist Turn in Japan”をJ19: The Journal of the Nineteenth-Century Americanists (近刊)、「『ウォールデン』における冬の経済」という論考を『アメリカ文学に見る親密圏のエコノミー』(仮題、今秋刊行予定)に、また単著書「野生の文法ーソロー、ミューア、スナイダー」が九州大学出版会の出版助成に採択され、今夏刊行の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に「モールス信号の政治学―ソローと一九世紀ネイティヴィズム思想」を刊行し、さらに日本英文学会で同じタイトルのもと、新たな観点を加えて研究発表(招待発表)を行うことができた。さらにその延長線上で巽孝之『パラノイドの帝国』の書評、および吉川朗子・川津雅恵編『トランスアトランティック・エコロジー ロマン主義を語り直す』の書評を公表し、一定の成果が得られたと考えている。 その一方で、2020年度はコロナ禍の影響に伴い、ハーヴァード大学およびカリフォルニア大学での研修が叶わなかったのは残念である。研究費の大半は書籍の購入に用いたが、今後さらに資料を整理する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
令和3(2021)年度はこのプロジェクトの最終年度だが、おもにふたつの方向性を視野に入れている。ひとつはアイルランド人の移動にかんして、大西洋をまたぐ交通、経済を歴史的により精確に理解することである。移民船に用いられた船舶、渡航航路と所要日数、衛生状況等について詳しく調べる予定である。 もう一つの方向性としては、サミュエル・モースによって提示された移民排斥論はプロテスタンティズムを核とした国家観と密接に関連しており、そうしたネイティヴィストの国家観が1830年代に形成されつつあった合衆国の歴史(ナショナル・ナラティブ)とどのように接続していたのか、より具体的に考察することである。モースの排外思想と表裏一体をなすアメリカの国家言説(ナショナル・ナラティブ)にみられる融合と排除の構図を明らかにすることを目指している。
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