研究課題/領域番号 |
19K00396
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
喜納 育江 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (20284945)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 境域文化 / トランスナショナル / 不寛容 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでトランスナショナルな「他者」に対する「不寛容」な態度を克服しながら自由と民主主義を成熟させてきたアメリカの歴史的歩みをふまえつつ、今日のアメリカの政治的環境で顕著になりつつある「不寛容」な言説が現代アメリカ文学の動向に与える影響について、人種、言語、ジェンダーなどの観点から究明していくことを目的としている。今年度は新型コロナウイルス感染症による海外の渡航制限が緩和されたことで、米国での調査が可能になったが、物価高等の経済の世界的な変容なども影響し、コロナ禍の計画の遅れを取り戻すほどの調査を行うことはできなかった。それでも一年に4回ほどハワイやカリフォルニアの作家や研究者とオンラインでアメリカ文化・文学に関する最新の動向について意見交換をし、アメリカ社会における「他者への不寛容」を表象する言説の収集を試みた。5月にワシントン州、9月にカリフォルニア州で行った資料情報収集では、米国内における外国文学研究の状況や、21世紀に入って注目されているアメリカ文学の書き手に関する情報を入手した。特に今年度は、トランスジェンダーをテーマに書く日系作家のHanya Yanagiharaや、Gayl Jonesが20年ぶりに出版した長編小説 Palmaresに注目した。Palmaresでは、逃亡した黒人奴隷がブラジルに築いたコミュニティについて描かれており、研究課題における「不寛容を克服しながら自由と民主主義を成熟させてきたアメリカの歴史」の暗部を読み取ることができるため、19世紀アメリカの奴隷制度から今日の移民の不法労働に通じる「奴隷としての身体(chattel)が本研究における新たなキーワードとして浮上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は新型コロナウイルス感染症による渡航制限の影響を受け、米国での調査ができない状況が続いていた。2022年度から渡航制限が緩和されたことで、渡航自体は可能になったが、パンデミックが原因となる「他者の不寛容」という新たな視点や、chattel slaveryという視点も出てきたため、「不寛容」というキーワードは、生命の危機的状況の中で人種やジェンダーによる人と人との境界線が人間の「不寛容」をどのように加速あるいは減退させていったのかなどの新たな問いを伴うようになった。本研究課題の当初の構想では想像できなかった状況の中で、当初の計画に機微な変更が生じたことへの対応が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2年間、研究期間を延長してきたが、この研究課題についての調査研究は来年度(2023年度)で完了する予定である。9月には再度米国に滞在し、「不寛容の言説の現在」についての資料を収集する。特に「他者の生命や身体」への「不寛容」という考え方を軸として、アメリカの19世紀から21世紀までの「不寛容の言説」の変化を考察し、その成果となる論文を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度と2021年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延による海外渡航制限の影響で、旅費の執行が全くできなかった。2022年度においては渡航制限の緩和により、執行可能となったが、未執行の海外旅費を遡及的に執行することはエフォートの観点からも不可能であったために次年度使用額が生じている。これについては次年度で完全に執行する予定である。
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