研究課題/領域番号 |
19K00401
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
野口 啓子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60180717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反奴隷制小説 / ハリエット・ビーチャー・ストー / 北部の奴隷制 |
研究実績の概要 |
本研究は、ハリエット・ビーチャー・ストーの『アンクル・トムの小屋』を中心とする反奴隷制文学が、19世紀中葉のルネッサンス期に隆盛を迎え、一つの文学ジャンルを形成したが、それはアンテベラム期の一時的な現象ではなく、古くは18世紀にすでに萌芽があり、さらにはポストベラム期以降のアメリカ文学に脈々と受け継がれていったことを明らかにしようとするものである。 初年度にあたる令和元年は、独立戦争後からウィリアム・ロイド・ギャリソンの奴隷制廃止を訴える『リベレーター』が刊行された1830年代までを反奴隷制文学の萌芽期として捉え、この時代に活躍したデイヴィッド・ウォーカー、リディア・マリア・チャイルドの著作物ならびに当時の新聞や雑誌等を中心に検証する目的で資料収集やその整理・分析を行った。その過程で、ストーに大きな影響を与えたと思われる白人作家リチャード・ヒルドレスのスレイヴ・ナラティヴ摸して書いた『奴隷』や、北部の元奴隷であった、ソジャーナ・トゥルースのスレイヴ・ナラティヴ(出版は1850年であるが、ウォーカーやギャリソンの時代と重なる)の重要性が改めて浮上した。 次年度にあたる令和2年は、初年度の研究成果をふまえ、ヒルドレスとストーやダグラスとの関係性について考察するとともに、(北部)女性のスレイヴ・ナラティヴの一例としてハリエット・ウィルソンやハリエット・ジェイコブズの研究を深めるうえでに大きな参考となり得るソジャーナ・トゥルースについてのリサーチを行い、分析を進める予定であったが、コロナ感染拡大にともない、海外でのリサーチをあきらめざるを得ない結果となった。この点は、最終年度である2021年度に行う予定であるが、すでに研究が進んでいるルネッサンス期の反奴隷制文学におけるインターテクスチュアリティ(間テクスト性)については、ほぼ目標を達することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究から新たに浮上した、北部の元女性奴隷ソジャーナ・トゥルース研究の必要性については、次年度の2020年に、海外でのリサーチを行う予定であったが、コロナ感染拡大にともない、諦めざるを得なくなった。しかし、当初の研究目標であったルネッサンス期の反奴隷制文学のインターテクスチュアリティ(間テクスト性)の検証については、ほぼ終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況において述べたように、本研究を進める過程で、浮上した新たな課題、ソジャーナ・トゥルース研究については、まだ十分なリサーチがなされていない状況である。トゥルース研究は、ストーとの影響関係において、また、女性奴隷特有の問題と、南部奴隷とは違う北部奴隷が抱えた問題について新たなパースペクティヴを提供する可能性を秘めている。今後は、当初の目標である「反奴隷制文学がアメリカ現代文学にどのように受け継がれていったか」についての考察に加え、トゥルース研究も並行して行う予定である。昨年度実施できなかったトゥルースのアメリカでのリサーチを、今年度行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ソジャーナ・トゥルースの現地調査と資料収集を行う予定であったが、コロナ感染拡大のために実施できなかったため。
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