研究課題/領域番号 |
19K00402
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
波戸岡 景太 明治大学, 理工学部, 専任教授 (90459991)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ソラスタルジア / ノスタルジア / エコ・ネクロフィリア / 環境ドキュメンタリー / ポストモダン文学 |
研究実績の概要 |
今年度年度では、引き続きGlenn A. Albrechtの著作に依拠しつつ、環境ドキュメンタリーの分析と、これに関する文学的想像力の比較研究を行った。Albrechtは、みずからのsolastalgia論を展開するにあたり、自然の「死」の視覚化こそを欲望するEco-necrophiliaを問題視したが、この議論は、アメリカのポストモダン小説家であるThomas Pynchonの作品にみられる環境論的想像力と、同時代の批評家Susan Sontagの提示する「自然に対するノスタルジックな視線」の問題を重ね合わせて論じる際にも有効な手続きであり、本研究においても、これら三者の思想的重なりを検証するかたちで、新たな環境表象文化批評を展開した。また、昨年度の研究結果を精査し、学術論文"For Whom the Environmentalist Shoots: Documentary and Adaptation"として刊行した。史実と再現、そして政治的メッセージの関係を、複数のドキュメンタリー作品を対象に分析を行った本論文は、当初より、Thomas Pynchon作品におけるnostalgiaの問題と発展的に接続するよう執筆されていたため、今年度の後半は、これまでの環境ドキュメンタリー研究を応用して現代アメリカ文学研究を行うという、当初の計画の遂行につとめた。Pynchonは、本研究がその解明を目的として掲げている「映画発明以後のメディアが醸成してきた特異な環境論的視座の本質」を、最も戦略的に物語化してきた作家のひとりであり、そのディテールを正確に分析するためにも、本研究は、映像と紙媒体というメディアを超えたアダプテーション理論を導入し、複数の領域にまたがる文学批評実践の融合に成功しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的な感染症流行のため、海外でのフィールドワークの可能性は断念せざるを得ず、初年度のリサーチを基盤とし、書籍・映像資料の分析とインターネットを介した海外の研究者とのやりとりのみで今回の研究を完了させることとなったが、そうした状況にあって、幸運にもアメリカの出版社からの協力を得ることができ、効果的かつポイントを絞った研究成果の発表機会が用意されたため。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの出版社とのあいだに、Thomas Pynchonの環境論的想像力を論じた単著刊行の契約を結んだ。最終年度では、この出版計画に、環境ドキュメンタリーと文学作品の関係を分析してきたこれまでの成果を全面的に組み込むことで、本研究の完成を目指す。感染症の世界的流行という非常事態に鑑み、今年度も旅費の執行はひかえ、代わりに英語論文の校閲に予算を大きく振り分けることで、国際的な環境表象文化研究に資する著作の出版を実現したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的な感染症の拡大により、旅費および調査に関わる謝金等の執行が不可能となったことが主な原因である。この金額は、最終年度でも執行不可能となる見通しが強い旅費および謝金とあわせて、研究成果の発表に関連する英文校閲の費用にあてるなど、弾力的な使用を計画している。
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