研究実績の概要 |
2023年度の研究成果として、論文1本、研究発表2件、及び講演1件がある。研究論文「「奇想」のフォークナー―詩人から作家へ、そして日本での足跡―」(『中京英文学』44号)は、5年に亘る研究成果の総括として、フォークナーの日本訪問に代表される冷戦期アメリカの文化外交と、そのために行われた日米両国における「国民作家」としてのフォークナーの評価の形成との関連を論じた。これに付随する研究発表として、シンポジウム「ウィリアム・フォークナーの日本訪問余滴――冷戦期文化外交と日本人作家」において「フォークナー訪日の足跡と意義―何が彼に求められていたのか」、及びその補完的成果として研究発表 「太平洋戦争をいかに表象するか:「国民映画」としての『ゴジラ』(1954)」を行った。また上記論文の元となった講演「奇想のフォークナー」を行った。また2019~2023年の成果としては、冷戦期の日本におけるフォークナーの受容を扱った共著『ウィリアム・フォークナーの日本訪問―冷戦と文学のポリティクス』(相田洋明編著, 2022)、及び論文「フォークナーの日本訪問と、アメリカ文化外交における「戦後」―フォークナーの「日本の印象」及び「日本の若者へ」を『ゴジラ』(1954)と共に読む―」(『国際英語学部紀要』24号, 2019)及び「日米における国民作家フォークナーの創生―Faulkner at Naganoからみる合衆国の文化外交戦略とその受容―」(『中京英文学』41号, 2021)がある。 これらの研究を通じて1955年のフォークナーの日本訪問が、米国文化使節としての外交政策に則ったものであること、その訪問が日本人の太平洋戦争のトラウマに対する文化セラピーとして機能し、それが今日に至るフォークナー研究の母体となったこと、及びそれらに対処したフォークナーの文化人としてのペルソナの多義性について証明できた。
|