本研究は、冷戦期の日米両国における国民文学創生の必要性とその意義について、ウィリアム・フォークナーの政治的及び文化的役割に着目しつつ、特に日米における南部文学の国民文学化という観点から再検証した。反共イデオロギーを体現するこの作家の1950年代の活動によって日米の冷戦イデオロギーは脱政治化され、且つモダニズム文学を人間主義に基づく文学形式として制度化することとなった。こうした戦後の状況と日米のフォークナーの需要と受容を批判的に検証することで、日本の南部文学研究が、フォークナーを戦後の日本を牽引する国民作家として再定義し、ポストコロニアル的状況に自ら参入していったことを明らかにした。
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