研究実績の概要 |
1915年に戦時中の娯楽として上演され、1ヶ月で閉幕となったヴァイオレット・パーン (Violet Pearn) 脚本、エルガー (Edward Elgar) が音楽を付けた児童演劇『スターライト・エクスプレス』 (Starlight Express) に関して、まずは原作アルジャーノン・ブラックウッドの原作、『妖精の国の囚れ人』(Algernon Blackwood, A Prisoner in Fairyland)の分析を進めている。その際、同時代のJ・M・バリー (J. M. Barrie) のPeter and Wendy, Der Tag, Echoes of Warなどだけでなく、前世紀末1895年に上演された『トリルビー』のジョージ・デュ・モーリエによる原作(George du Maurier, Trilby)、1909年のガイ・デュ・モーリエがバリーの助けを借り「愛国者」のペンネームのもと世に問うた戯曲『英国人の家』(Guy du Maurier, An Englishman’s Home)といったテクストとの比較・分析を通しての位置付けを試みることが有効であるという点に思い至り、これらのテクストに見られるナショナル・イデオロギーやリベラリズムに絡む言説を足がかりに分析を進めている。 また1915年に執筆されたD・H・ロレンスの戯曲『危機一髪』(D. H. Lawrence, Touch and Go)の階級表象について、19世紀末以降のニュー・リベラリズム擁護派による中産階級および労働者階級の表象、またロレンスの他のテクストの階級表象との比較・分析を進めている。これまでに分かってきたことは、『危機一髪』における中産階級の描き方は典型的な表象が用いられている一方、労働者階級に関しては、ニュー・リベラリストやロレンスの他のテクストの表象との乖離が見られる。これは戯曲という媒体に起因するものなのかといった点や、上記のブラックウッドなどのテクストとの位置付けなど、今後さらに分析を進めていきたい。
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