2019年度には、ポーランドで出版されたナボコフの記憶をテーマとした論集に中篇小説『透明な対象』論を投稿した他、ナボコフ短篇読書会において短篇「翼の一撃」について発題を行った。 2020年度には、国際シンポジウムでの報告で論じる『透明な対象』において重要なテーマ群を密かに形成する固有名詞群の機能について、シェイクスピア作品との関連も含めて紀要論文で論じた。 2021年度には、本研究の主要な成果発表の場として国際シンポジウム"Vladimir Nabokov and Analytic Philosophy"を5月中旬から5週間にわたって文書提示によるオンライン方式で実施した。海外研究協力者ブライアン・ボイド教授はナボコフとカール・ポパーの対照性と近似性について、同じくゾラン・クズマノヴィチ教授はナボコフとグレゴリー・カリーについて「物に対する共感」をテーマに論じた。報告者は『透明な対象』においてウィトゲンシュタインとG. E. ムーアがそれぞれの名前と哲学的仮説によって作品中で果たしている役割について論じた。国内研究協力者小山虎講師が各報告に対して哲学研究者の立場からコメントし、各報告者が応答した。さらに出席者からの質疑応答があった。文書により時間をかけての議論が続いたため、予想を大幅に上回る充実度となった。2021年度末に、報告、コメント、議論、質疑応答のすべてを収録したプロシーディングスを完成した。テーマ、開催方法、開催期間、プロシーディングスの収録内容のすべてにおいて世界初と言えるプロジェクトとなった。 2022年度には、アメリカで開催されたナボコフの国際学会に遠隔で参加し、『透明な対象』において「ムーアのパラドクス」がどのように応用されているかを詳細に論じた。国際シンポジウムでの報告を補完する内容であり、海外のナボコフ研究者と意見交換ができて有益であった。
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