研究課題/領域番号 |
19K00412
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ルネサンスと近代科学 / 自然科学と錬金術 / 宗教と科学 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、COVID-19による移動の制限ゆえに英国に渡航しての非言語テクスト、具体的には図像、彫刻、絵画などの精査に著しい制限を余儀なくされた。かかる事情による一次資料の立体的な視座からの検証にいささかの不足があるものの、「近代科学」の枠外へと排除されてゆく言説のなかに、すくなからず精神史的文脈、とりわけギリシャ古典から継承された諸要素が、同時代の科学的探求が追いつかない分野においてむしろ積極的に引用、解釈、領有されている様子を看取することができたことは大きな収穫であった。 具体例として、John Donne, Biathanatos, (1608)では自然科学と神意の間に理性を位置づけることにより、科学と信仰のせめぎ合いが前景化されつつ、宗教的禁忌とされる自死の問題が論じられる。科学が巧みに信仰と対比・相対化される文学的意匠については、今後さらに内容・形式の両面から精読を重ねたいと考えている。Donneの文章は散文、韻文を問わず、一般にきわめて難解であるが、いわゆる形而上学的思考を跡づける文体や語彙の使用に際して、意図的に当該語彙のラテン語源への参照が含意される点はきわめて重要と考えられる。 疑似科学・似非科学の当時における立役者としてSimon Forman (1552-1611)が当時の言説空間に与えた影響は極めて大きい。占星術、生理学、オカルトなどきわめて広範な彼のテクストをつぶさに検証することで、古くはE.M.W. Tillyard, Elizabethan World Picture (1959)が描いたルネサンス期の(衰退しつつあった)「科学」諸領域への具体的なアクセスが可能となり、近代科学の黎明期の混乱を一次資料の横断的な読解によってたどることもまた可能となった。このことについても次年度の研究にまとめたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19に付随した移動の制限により、渡英しての非言語的研究対象物(図像、立体形象、建築など)のリサーチの困難さに直面したことから、研究範囲を電子データを活用しつつ、言語記号のレベルに絞り込むことで、それまで想定していた計画の変更を余儀なくされたことと、それに付随して一次資料の読解にあらたな方法論的視座が設定できそうであることが判明し、そのことについて新規にリサーチの範囲を設定することが必要となったことから、研究をまとめるための範囲・対象・分量がかなり広がってしまった。このことにより、当初計画よりも研究に時間を要することがあきらかとなったため、全体的な進捗状況としては、「やや遅れている」と自己判定せざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究については当初予定していた非言語的記号(図像、立体形象物、建築等)の現地調査は割愛し、言語的一次資料、それも製版・公刊されたものに絞り込んで研究し、その成果をまとめることとしたい。 その場合においても、表舞台から抑圧されていった伝承や疑似科学については、その性格故に活版印刷を媒介としない史料が相当数存在し、それらのリサーチが不可欠であることも、ここまでのリサーチで判明していることから、当該史料へ具体的にアクセスできる海外の研究者の業績へのアクセス、さらに当該研究者とのコンタクトなどをふまえて、当初計画に照らして不足が懸念される領域の補完に万全を期したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で英国への渡航調査のために計上していた旅費について執行できず、次年度繰越となった。文献資料の調査に研究対象をおおよそすべて絞り込んだことで、付随するデータベースアクセス費用や海外の研究者への資料提供や取材に絡む費用へと振り替えることができれば、研究遂行は可能と考えるところでもあり、次年度使用額の有効活用をはかりつつ、研究の完了を目指したい。
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