研究課題/領域番号 |
19K00412
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 科学と迷信 / 神話の合理化 |
研究実績の概要 |
ギリシア神話の中世における合理化(Euhemerism)は、ルネサンス期におけるイコノグラフィにいたる表象の伝統を形成している。それは端的に言って、神話の説話空間の具体的表象のこころみと捉えることができる。
古代の異教的天文学の言説を、原始キリスト教会、中世キリスト教会はいかにして合理化・共有を図ったか。そこには科学と魔術の臨界に介在する神々の姿を察知することができよう。このことは、宇宙(macrocosm)と人体(microcosm)のcorrespondence(照応)を論じようとする体系化への渇望を、前年度の研究期間に、Simon Formanの「総合化・体系化」の言説を駆動する「すべてを記述する物語への欲望」として確認することができたところである。そこには科学と哲学(倫理学・道徳、いわゆるMoral)を架橋することへの渇望が看取される。かかる「世界を記述し尽くす統一的な構造理解への欲望」については、現代の知の最前線、たとえばBrian Greene, Until the End of Time (2020)にまでたどることができる。
グリーンが物理学の現時点における知見の総合・統合のもとに宇宙と地球上の生命、さらには人間の心のありようまでを記述しようとするさまを、仮に今より400年後の科学的知見に基づいた検証がなされたとき、こんにちのわれわれがフォーマンの言説に読み解くようなことが感じられるのではないだろうか。具体的に看取でき、科学的に描写できると考えられた認識論的地平を、人間存在の精神面とのすり合わせを経て「合理性」と「不条理」を切り分けようとする動機こそが、科学的言説と虚偽言説の臨界において考察・解明されるべき問題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19に付随した移動の制限により、渡英しての非言語的研究対象物(図像、立体形象、建築など)のリサーチの困難さに直面したことから、研究範囲を電子データを活用しつつ、言語記号のレベルに絞り込むことで、それまで想定していた計画の変更を余儀なくされたことと、それに付随して一次資料の読解にあらたな方法論的視座が設定できそうであることが判明し、そのことについて新規にリサーチの範囲を設定することが必要となったことから、研究をまとめるための範囲・対象・分量がかなり広がってしまった。このことにより、当初計画よりも研究に時間を要することがあきらかとなったため、全体的な進捗状況としては、「やや遅れている」と自己判定せざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究については当初予定していた非言語的記号(図像、立体形象物、建築等)の現地調査は割愛し、言語的一次資料、それも製版・公刊されたものに絞り込んで研究し、その成果をまとめることとしたい。 その場合においても、表舞台から抑圧されていった伝承や疑似科学については、その性格故に活版印刷を媒介としない史料が相当数存在し、それらのリサーチが不可欠であることも、ここまでのリサーチで判明していることから、当該史料へ具体的にアクセスできる海外の研究者の業績へのアクセス、さらに当該研究者とのコンタクトなどをふまえて、当初計画に照らして不足が懸念される領域の補完に万全を期したいと考えている。 なお、修正した作業仮説としては、1) ギリシャ神話における記述のキリスト教文化圏における合理化(Euhemerism), 2)自然科学、とりわけ天文学と占星術の関連付けを背景とするmacrocosm/microcosmの照応を軸とした、人間理解のこころみなどを軸として、3)近世初期における宗教的背景とのかかわりでのモラルの問題への展開などを論点に研究を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で英国への渡航調査のために計上していた旅費について執行できず、次年度繰越となった。文献資料の調査に研究対象をおおよそすべて絞り込ん だことで、付随するデータベースアクセス費用や海外の研究者への資料提供や取材に絡む費用へと振り替えることができれば、研究遂行は可能と考えるところで もあり、次年度使用額の有効活用をはかりつつ、研究の完了を目指したい。
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