最終年度は、コロナ禍のために実施できなかった現地調査を中心にした研究を行った。大別して3か所で、大英図書館とオックスフォード大学ボドリアン図書館では、数点の19世紀初期の図書館蔵書目録を閲覧し、オンライン資料では確認できなかった地方図書館の記録を収集した。そしてノッティンガム・ブロムリーハウス公共図書館では、19世紀に開館した当時の規約や会員・蔵書リストの実物を精査することができた。この図書館は19世紀初期に開館し現在も運営している希少な公共図書館である。帰国後は、入手した蔵書記録から予約購読出版の可能性のある書籍を抽出したり、蔵書となっていた定期刊行物の種類を確認することで、その影響力を測る根拠とすることができた。しかし円安と物価高によって生じた想定外の経費の不足から、残念ながら渡航が1回できなかったため、計画当初に予定していた出版社アーカイヴでの出版情報・出納帳の調査はできなかった。そのため、現地で収集できた資料が不十分で、その資料を主体にした研究発表を創出するには至らなかったが、複数の研究発表の根拠となる状況証拠として利用することはできた。 本研究計画はその初年度からコロナ禍の影響によって計画にゆがみと遅延が生じてしまった。それでも初年度と2年度では、紙媒体と電子化された資料によって会員制有料図書館の蔵書目録の調査を行い、各所の定期刊行物と文芸嗜好等の考察、さらには会員記録から地域社会での影響力等の考察に発展させた。資料の分量に限界はあったが、ある程度行うことができた。以上から、まだ研究の余地が残るものの、予約購読出版と読書施設の相互関係が、文芸・出版文化史において、現代に通じる多様性・柔軟性を生成・保証する起点になったことを複合的かつ実証的に研究することができた。
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