20世紀初頭の都市化や産業化が個人の生き方や人々の交際のあり方に変化をもたらして以降、社会的な絆や人づきあいにまつわる問題がさかんに議論されるようになった。さらに21世紀の現在、新型コロナウィルスの感染拡大を経験した我々は人間同士の距離/結びつきについてあらためて考え直すようになった。本研究で明らかになったのは、通常、20世紀以降の問題とされる複雑化した人間関係の不安が、実は19世紀半ばのテクストにその萌芽を顕していたということである。本研究を通じて浮かび上がった「共感」や「友情」といったキーワードは、19世紀から20世紀に渡る共同体構築に関わる言説を再考するための有効な視座を提供するだろう。
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