研究実績の概要 |
本年度は、15世紀イングランドの教会改革時、「地下水脈」と認識される大陸の神秘思想が、いかに伝播・受容されたかを問うた。特に、大陸の神秘主義文学が同時代の神秘主義文学、及びこれに関連する幻視文学や聖人伝等への影響について検証するなかで、ハッケボーンのメヒティルドのLiber Specialis Gratiae(『特別な恩寵の書』)及び15世紀初頭にサイオン修道院ないしはカルトジオ修道会で英訳されたThe Boke of Gostely Grace(綴りはOxford, Bodleian Library, MS Bodley 220に準ずる)と、同時期にサイオン修道院の修道女に向けて英訳された、シエナの聖カタリナのIl Dialogo(『対話』、原著はイタリア語、中英語タイトルはThe Orcherd of Syon『サイオンの果樹園』)について比較、検討した。研究の成果は、 ‘ Medicalised Discourse and Holy Women’s Writing at Helfta and Siena’, in Writing Holiness across Boundaries: Gender, Genre, and the Study of Sanctity, ed. Jessica Barr and Barbara Zimbalist (Turnhout: Brepols, forthcoming 2023)として公開の予定である。 また、2022年2月に、研究会「中世後期の宗教テクストのイマジナリー」を静岡大学で開催し、松田隆美先生(慶応義塾大学)による本研究に関する講演等をとおして活発な意見交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
Mehchild of Hackeborn, Birgitta of Sweden, Catherine of Sienaの著作がサイオン修道院から隠修女、貴族階級、富裕な女性読者に流通した点に注目し、大陸の神秘的霊性をいち早く吸収したノーフォークの神秘家、Margery Kempe の自伝、The Book of Margery Kempeに与えたMechthildの影響についての研究で得た知見の上に、今後更にJulian of Norwich のA Revelation of Loveとの関連を取り上げ、大陸の女性神秘家の翻訳著作が読書や読者の著作活動に与えた影響を教会改革の文脈で検討する。
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