最終年度となる2022年度は、第一次世界大戦、人種的他者、戦争の記憶、現代世界情勢に関する資料・文献・情報の収集・整理・考察と、大戦百周年の意義と課題の検証と、文学テクストの分析を中心に進めた。本年度も、本研究課題の重要な基盤となるはずの現地調査が新型コロナウイルスのために実施できず、当初の研究計画を大幅に再考・修正する必要があったが、可能な範囲で、資料・文献・文学テクストのための作業に注力した。 成果として、まず、「コロナ禍の時代を生きる命と想像力―アリ・スミス『夏』における「終わりの風景」と希望の可能性」という題目の論考が『終わりの風景―英語圏文学における終末表象』(春風社、2022年)に掲載され出版された。これは、戦争の記憶と、ブレグジット、難民危機、新型コロナウイルスのパンデミックといった今日的問題との関係について論じたものである。もう一つの成果として、論文「虹の向こう側の「世界」 ―D・H・ロレンス『虹』と帝国主義」が『言語文化研究』第49巻(2023年3月)に掲載された。この論文は、21世紀文学を対象とする本研究課題の当初の研究計画には含まれていなかったが、第一次世界大戦期のイギリスの帝国主義、人種的他者といったテーマに取り組む過程で実現した。 全体として、新型コロナウイルスのパンデミックにより、2020年度以降、現地調査を実施できなかったため、当初の研究計画通りにすべての研究テーマを遂行することはできなかった。だが、これまでの研究を単著書『百年の記憶と未来への松明(トーチ)―二十一世紀英語圏文学・文化と第一次世界大戦の記憶』(松柏社、2020年)(福原賞、咲耶出版大賞特別賞を受賞)として完成させることができたことは、学術的意義に富む大きな成果であると自負している。
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