本研究は、19世紀後半から20世紀前半のイギリスにおいて、主に10代の少女たちに大きな影響を及ぼした女子大生小説と少女雑誌を研究対象とし、女子の高等教育に関する言説が女性のキャリア形成にどのように関与したのかを明らかにすることを目的とするものである。 最終年度に当たる2021年度は、女子大生小説の創始者L. T. ミードが、19世紀末にケンブリッジ大学女子学寮ニューナム・カレッジとガートン・カレッジを訪れ、学寮長や学生など関係者にインタビューし、その視察の結果を自らが編集者を務める雑誌『アタランタ』で発表した記事や、彼女が著した女子大生小説などを分析した。また、当時の代表的な少女雑誌『ガールズ・オウン・ペーパー』等に掲載された女性の職業に関する記事を集め、分析した。これらの作業によって、19世紀末から20世紀前半イギリスの女子高等教育および女性のキャリア形成のありようの一端を詳らかにすることができた。 さらに、実践女子大学の学祖である下田歌子が19世紀末に欧米の女子教育視察に赴き、それによって得た知見を記した『泰西婦女風俗』を上記の研究結果と比較しながら読み解くことにより、日本の女子教育の先駆者である下田が、イギリスの女子教育と女性のキャリア形成から具体的にどのような影響を受けたのかを考察することが可能になった。その成果は、論文「自立自営への道-『泰西婦女風俗』とイギリスの女子教育」(『下田歌子と近代日本-良妻賢母論と女子教育の創出』勁草書房、2021年所収)にまとめ、発信した。 このような影響関係の解明はこれまでなされていない。当時のイギリスのみならず、日本の女子の教育・キャリア形成にまで研究の射程を広げることができたのは、大きな成果であった。今後の研究の展開を考えるうえでも重要な一歩となった。
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