本研究の目的は、王政復古以降のコメディ・オヴ・マナーズの発展と都市空間の変貌の相関関係に注目することで、社会史・文化史的アプローチによって演劇テクストが都市空間の機能そのものを変容させたことを解明することにある。劇作家ウィリアム・ウィッチャーリーがコメディ・オヴ・マナーズにおいてセント・ジェイムズ・パークという社交空間の明暗をいかに表象したかについては、すでに2008年に「 “in the dark…there is no envy or scandal”――ウィリアム・ウィッチャーリーの『迷える恋、あるいはセント・ジェイムズ・パーク』における空間表象――」という論文を発表していたが、本邦では研究がほとんどなされておらず、王政復古期演劇と都市空間の表象との関係を考察する上で重要な意義があると考える。 さらに、当該年度までには、王政復古期から18世紀におけるコメディ・オヴ・マナーズの発展とロンドンの都市空間、一大ショッピング・センターであったニュー・エクスチェインジ、劇場やパークの変容を研究し、その研究成果は、玉井 暲、岩田 美喜、向井 秀忠との編著である『コメディ・オヴ・マナーズの系譜――王政復古期から現代イギリス文学まで』(音羽書房鶴見書店、2022年6月)に所収された単著論文「ウィリアム・ウィッチャリーの『田舎女房』における作法(マナーズ)に対する戦略のアンビヴァレンス」(22-48頁)としてまとめた。
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