研究課題/領域番号 |
19K00428
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
福士 久夫 中央大学, 人文科学研究所, 客員研究員 (80096164)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視点 / アイロニー / コンテキスト / 歴史 / ジャクソン / ロランス・トンプソン |
研究実績の概要 |
中央大学人文研紀要に「視点、アイロニー、コンテキスト、歴史、ジャクソン――メルヴィルの『レッドバーン』を再読する」というタイトルの論文を寄稿した。(原稿提出日:2020年3月31日。) 概要――本研究は、『レッドバーン』の登場人物のひとりである船乗りのジャクソンに読解の視点を据える。ロランス・トンプソンが1952年の研究書『メルヴィルの神との争論』において主張する、メルヴィルのアイロニカルな語り(の技法)に則してジャクソンを読み解くと、作品が一方でジャクソンに付与し続ける、表面的には否定的とみなさざるを得ない、「悪魔」、「暴君」、「無神論者」、「不信神者」などに象徴される否定的イメージに、概ねそのまま依拠した、近年におけるいくつかの代表的な『レッドバーン』論――具体的には、James Dubanの1958年の著書、John Hustonの1989年の著書、及びKathryn Mudgettの2013年の著書中の『レッドバーン』論――が提示する否定的ジャクソン像とは異なる、もっと肯定的、積極的に評価し得る幾つかのジャクソン像が浮かび上がる。たとえば、それらの1つは、語り手でもあり、主人公でもあるレッドバーンに、「奴隷船」に乗組んでいたときの体験を語って、「奴隷」や「奴隷船」などの語を(作中で最初に)使うことによって、『レッドバーン』の物語世界に、奴隷制とそれを支える奴隷貿易のコンテキストを与えるという役割を果たすジャクソン像である。こうして、読解の視点をジャクソンに据えて読むと、『レッドバーン』は、メルヴィルは否定的なイメージを帯びたジャクソンを仮面にして、作品の背景をなす19世紀前半期のいわゆるジャクソニアン・デモクラシーの実相を痛烈に刺す、相当にラディカルな物言いをしている作品という新しい顔貌をみせることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の初年度(2019年度)の研究計画では論文を3本書く計画になっていたが、1本しか書けなかったという意味で「遅れている」。 その理由は3つある。1つは、2019年5月に東京都世田谷区からさいたま市浦和区へ引っ越しをしたことによって、それに伴う事前及び事後の諸作業に忙殺されたことことであり、これが一番おおきな理由。 2つには、研究の初年度ということで、PCの研究費による購入をはじめとする機器の購入、それらを使いこなすための環境の整備、手元にすでに収集してある文献以外の必要な文献(中央大学図書館、東大アメ研図書館などが所蔵している書物)の借り出し、コピーなどに、かなりの時間を割かなければならなかったこと。 最後に、論文執筆にとりかかった年度末の段階で、新型コロナウィルス感染症問題が徐々に重大化し始め、研究拠点である中央大学の図書館をはじめとして、地元の公立図書館や東大アメ研図書館などへのアプローチがままならなくなり、結果的に、referenceの確認ができない論述などを、論文から削除せざるを得ないなどの事態が出来し、少なくとも2本は書くつもりだったにもかかわらず、1本を仕上げるにとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第2年度である2020年度においては、以下の5本の論文の執筆をめざす。――①2019年度に書いた『レッドバーン』論(「視点、アイロニー、コンテキスト、歴史、ジャクソン――メルヴィルの『レッドバーン』を再読する」)を補足する論文、②『白ジャケット』についての論文、③『白鯨』についての論文、④『詐欺師』についての論文、⑤『戦闘詩篇』についての論文。 ①については、すでに着手し、執筆中。なお、上記以外に、メルヴィル文学に見出すことのできる「生垣」や[柵」のイメージに視点を据えた論文を構想中。すでに、このテーマに関連する文献は相当数すでに収集済みであるが、読みたいがまだ手元にない文献が2,3点あるので、その入手を現在画策中。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由――前年度の第3四半期に、特に第4四半期に、予定していた出張、図書の購入、図書の取り寄せ・コピーなどを取りやめたため。 使用計画――学会や研究会へ出張費、図書の購入費、図書の取り寄せ・コピーに伴う費用、学会費、論文掲載費、などとして使用する。
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