研究実績の概要 |
本研究では、主にウィンドラッシュ以後のイギリスに活動拠点を持つアフロ・カリブ系移民作家に焦点を当て、これまで、男性中心主義的であるとされてきたウィンドラッシュ世代の文学観からの転換、新たな視点でアフロ・カリブ系女性作家たちの作品を読み解き、正当に評価されることが少なかったウィンドラッシュ世代とそれ以後のカリブ系作家たちによる文学活動の再構築を目指すことを趣旨としている。具体的には、Una Marson, Louise Bennett, Beryl Gilroy, Pauline Melville, Andrea Levy, Valerie Bloom, Hannah Loweらの活動、作品分析を対象としている。 本年度は、コロナ禍の影響により、比較的、資料が入手しやすかったAndrea LevyとPauline Melvilleの作品を中心に研究を進めた。特に、Andrea Levy原作の舞台、Small Islandの映像を限定的に特別公開されていたYouTube上で視聴することができ、文学作品とパフォーマティブな舞台との比較検討を行うことができたのは、非常に意義があったと考えている。Pauline Melville作品における、カリブ系移民のディアスポラ的状況と移民先での労働問題に着目し、特に、社会の下層に生きる移民の闇を抽象と幻想との間に描き出す手法を通じて、ある種モダニズム的ではあるが、同時に想起されるリアリスティックな世界観を生み出す効果が明らかになった。 また、ガイアナ生まれで幼少時にロンドンに移住したPauline Melvilleとジャマイカ人両親が実際にウィンドラッシュ号に乗っていたとされる、ウィンドラッシュ第二世代であるロンドン生まれのAndrea Levyを比較した場合、やはり植民地と宗主国の関係性を捉える上での認識に差異があり、「家族」関係を描く上でもその影響が伺えることから、引き続き、詳細な分析を行う必要性があると考えている。
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