本研究は、アナイス・ニンの自伝的テクスト群(編集版日記、初期の日記、無削除版日記、フィクション、書簡等)をパリンプセスととして読み重ね、ジェンダー/セクシュアリティ研究、自伝研究、親族研究、精神分析理論等の知見を駆使し、21世紀のアナイス・ニン像を構築する試みである。 2019年度は、1次・2次資料の収集と整理・分析に時間を費やした。 2020年度は、アナイス・ニン研究会のメンバーで『アナイス・ニンとの対話』(鳥影社)を共訳・出版した。前年度中止となったアナイス・ニン研究会はズームで開催され、無削除版日記第6巻Trapeze(2017)を巡るシンポジウムを行った。 研究最終年度にあたる2021年度は、本研究の最終成果として出版予定の研究書の執筆に力を注いだ。その一部を日本ヘンリー・ミラー協会大会で発表、積極的な反応を得るとともに、有意義な意見交換を行った。また、2019年に出版した『アナイス・ニンのパリ、ニューヨーク』(水声社)のパリ編を増補改定し、英仏バイリンガルに訳したAnais Nin's Paris Revisited: The English-French Bilingual Editionを同社より出版(仏語訳はブレンダン・ルルー帝京大学准教授が担当)、されにそれをアメリカの会社から電子書籍として出版し、世界の読者に向けて発信した。本書は学術書ではないが、ジェンダー/フェミニズム研究を中心に新しい批評への目配りもあり、21世紀のニン再読の役割は果たしえたものと考えている。ヘンリー・ミラー研究誌Nexus第14号に好意的な書評も掲載された。さらに、新しいフェミニズム誌『シモーヌ』の特集「『私』と日記:生の記録を読む」に「お友だちはダイナマイト――『アナイス・ニンの日記』とセクシュアリティ」を寄稿し、一般読者にアナイス・ニンを紹介することに貢献できた。
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