研究課題/領域番号 |
19K00437
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
向井 剛 (向井毅) 福岡女子大学, 国際文理学部, 学長特別補佐 (40136627)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | サイオン修道院 / ウィットフォード / 初期印刷本 / 書物出版史 / 対抗宗教改革 |
研究実績の概要 |
ウィットフォード3作品の出版史に整理をつけた初年度の調査を踏まえて、今年度は、彼自身のA Werke of Preparacion (1531, 1537)と聖ベルナール著の翻訳作品The Golden Epistle (1530, 1531, 1585)に焦点を当てて、書物のつくりと本文比較を行い、異端とされる言説の改訂問題、各作品の特色と受容、意図された購入者・読者層を行った。
国王至上法の成立とともにサイオン修道院の出版物への検閲が始まったと考えられる1534年頃から、サイオン修道院に解散令が出された1539年の間に編集・再版された第2版A Werke of Preparacion (1537)には、著者ウィットフォードが書き下ろした序文があり、そこには不適切な表現、誤り、異端的内容を含む自戒が明言されている。事実、第2版の本文には、この序文に対応した改訂が種々ほどこされていることも突き止めることができた。サイオンの名や著名なウィットフォードの名を控える方が、宗教改革の波を潜り抜けることができたはずであろうが、敢えてそうした戦略的編集を避け、主義を貫いたところに、「対抗宗教改革」の試みとして、同修道院の教えと日々の修練の正当性への強い意志と信頼を見ることができた。
また、The Golden Epistle (1530, 1531, 1585)は、解散令前に2度(1530, 1531)、そしてエリザベス女王の治世に1度(1585)出版される。第3版には、修道院解散後に「各地に離散したサイオン修道士の協力を得た」と謳う序文があり、英国国教会確立期における本書の書物の受容ぶりを解明すべく、先行の1531年ワイアー版と本文の比較を行う作業を進めた。しかし、入手できたPDFは不完全であり、現地調査が欠かせないが、コロナ禍のため実施が出来ず。調査が半ばで終わることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の調査において、3作品A Work for Householders、The Golden Epistle、A Werke of Preparacionの出版状況が、申請者の予想を超えて複雑に入り組んでいることが判明し、その整理なしには前に進めることができないことがわかった。そのために、研究手順を改め、初年度は先ず3作品の出版史全容の整理・把握につとめ、それを一覧にした「出版史」の作成までこぎつけることができた。そして、2年目にあたる本年度は、「研究実績の概要」に記したとおり、A Werke of Preparacion (1531, 1537)とThe Golden Epistle (1530, 1531, 1585)を対象に、本文比較を行い、異端とされる言説の改訂問題に取り組み、成果を得ることができた。
しかし、PDFで入手できたテクスト、一部不鮮明な個所があり、精確かつ徹底したな本文校合を行うことができなかった。また異本の調査も確認できていない。コロナ禍が終息し、海外の所蔵機関での調査が望まれる。
この間、関連の図書の収集と理解に努めた。また、本研究に関連して、研究図書の出版準備を行い、成果の一部をその中に取り入れることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に調査が半ばで終わっているThe Golden Epistleについて、コロナの収束状況を見ながら、現地調査を実施する必要がある。仮に海外渡航が不可能であれば、この作業を中断したうえで、第3番目の「問い」であるA Work for Householdersをめぐるサイオン・アベイの出版戦略について考察する。
印刷家ド・ウォードを中心に、1530年、1531年、1533年、1537年の各年に、それぞれ異なる印刷者から同時に2種の版が4度出版されるが、この特殊な出版形態について書誌学的観察をとおして究明する。この課題は、研究史上いまだ実施されておらず、本研究をもって解明されることが期待される。特に、サイオンの異端性への眼差しが強くなる1537年版における書物のつくりと本文の在り様が、先行版と比べていかに編集の手がくわえられているか明確にしてみたい。
本研究課題は、現地調査を抜きにしてその成果を公表することが難しく、いずれも発表に至る資料を整えるという作業に位置づけられる。The Golden EpistleにせよA Work for Householdersにせよ、所蔵図書館での徹底調査が待たれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度及び2020年度に計画していた海外での調査研究が、新型コロナウィルス蔓延により当該国渡航禁止となったために、すべて実施することができなかった。 安全が確認でき次第、延期している現地調査を2021年度に予定している訪問調査分と合わせて行う計画である。 また、海外から入手を試みた研究資料も、先方のコロナ事情により叶わず、頂いた予算を計画的に執行できない状態が続いている。
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