研究実績の概要 |
海外調査遂行不可能を想定して、予め計画したとおり、EEBOで入手可能な /Work for Householders/(1530,1531,1533,1537)について調査を行った。宗教改革後、修道院が取り潰されたにもかかわらず、なおサイオン修道院の教えが読者を得て、途切れることなく出版され続けたことを示す、2種の1537年版(RedmanとWayland)を調査の対象とした。判明したことは、概略、次の4点である。①これまで独立して、しかも4折で出版されていた/Householders/が、/Werk of Preparacion/や/Daily Exercise and Experyence of Dethe/と一緒に合冊され、手ごろな8折本として3部仕立てで出版されたこと、②これらの作品間に、相互に参照しあう箇所があり、Whitfordは当初から合冊にすることを想定していたこと、③Redman版とWayland版の間には、序文と本文において異同が観察されること(徹底調査が必要)、④修道院内の宗教実践がなお求められた背景として、宗教改革の混乱期にあって、/Householders/が教える通り、家庭の主人或いは地域の中心的な俗人が、精神的(宗教的)な導き手になる機運が誕生していたこと。 Whitfordは修道士仲間のReynoldsが国王不支持で処刑される姿を目の当たりにするが、彼もまた不服従を貫き、審問委員から要注意人物と断じられた。従って、1537年版は、俗人を対象とする家政の書の形態をとりながら、対抗宗教改革の象徴的な一書と考えることができる。 本研究には、現存コピーの調査が必須である。しかしこの3年間、コロナ禍のために海外渡航ができず、計上した渡航費を執行することができなかった。職務の立場上(学長)、今後も海外出張を控えるべきであり、未執行分を返納することとする。
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