ニュージーランドは、「差異」に起因する様々な問題を「対話」を通じて克服することで、多民族・多文化が共生できる有機的な社会を構築してきた。本研究は、そのような平和意識の根底には先住民族マオリの多神教的自然宗教と白人入植者が持ち込んだキリスト教との世界的に極めて稀有と言える弁証法的な融合が存在することを文学の視点から解明することを目的とする。 2023年度は研究の最終年度として、研究成果を論文「失われた生得権の回復:ジェイムズ・ケア・バクスターにおけるキリスト教とマオリタンガの統合」としてまとめ、日本ニュージーランド学会に提出した。なお、本論文は査読審査を終え、2024年6月に『日本ニュージーランド学会誌』第31巻に掲載されることになっている。本論文では、マオリへのキリスト教宣教開始時にまでさかのぼることで、ふたつの宗教の相克から、時代を経てマオリと白人が互いの文化の霊的な源泉を受け入れ合うことで、新たなものが生み出されていくプロセスを、歴史家キース・シンクレア、キリスト教宣教師トーマス・ケンドル、白人詩人ジェームス・バクスター、マオリ詩人ホネ・トゥファーレらの言説をもとに紐解いた。 なお本研究の他の成果として、丸善出版の『オセアニア文化事典』(2024年出版予定)では、「マオリ文学」について執筆している。また、2024年6月開催の日本ニュージーランド学会研究大会(於:弘前大学)公開シンポジウムでは、パネリストとして研究成果を発表する。
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