本研究の目的は、ロマン主義時代に活躍したSydney Owenson、Robert Bage、Gilbert Imlayなどの作品を取りあげ、Warren Hastings、東インド会社 、ネイボブ、が作品中でいかに表象されているのかを考察することである。Hastingsはインドの支配体制を樹立し帝国建設の最大の功労者であったが、総督在任中のインド統治が過酷であると批判され、1788年に弾劾に付された。弾劾裁判ではHastingsを擁護する者と批判する者との間で激しい論争が繰り広げられた。Hastingsの仇敵Edmund Burkeの弾劾演説、政治論評、Robert Ormeの旅行記など多様な言説などを援用して、Hastings表象の背後に潜む政治意識、民族意識、宗教意識を浮き彫りにすることを目指した。研究期間中に以下の成果を得た。「ロバート・ベイジの『美しきシリアの人』に見られる異国表象」(2019)では、Hastingsの支配したインド亜大陸と類似した状況にあった北アメリカ植民地の異国表象に着目し、Bageの政治的意図を明らかにした。「オーエンソンの『女性、あるいはアテネのイーダ』に描かれたオスマン帝国支配下のギリシア」(2020)では、当時は東洋と見なされていたギリシアとギリシアを植民地支配下に置いていたオスマン帝国の夫々の表象の背後に潜む作家の政治意識を検証した。「ロバート・ベ イジの『ヘネス山』に見られる異国表象」(2021)では、インド亜大陸と北アメリカ植民地に見られる異国表象の異同を分析した。「イムレイの『移住者』に見られるアメリカ表象」(2021)では、『移住者』にみられるアメリカ表象の特異性を明確にした。「『オドンネル』に用いられた文学戦略」(2022)では、イギリスの植民地支配下にある国を小説の舞台にした場合に作家が取らざるを得ない文学戦略を検証した。
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