研究課題/領域番号 |
19K00440
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
大西 洋一 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10250656)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 北イングランド / 労働者階級 / 炭坑労働者 / 炭鉱 / 炭鉱ストライキ / 炭鉱演劇 / 産業演劇 |
研究実績の概要 |
2021年度は、引き続き1984-85年炭鉱ストライキに関わる演劇およびその他の表象文化の調査を行なうとともに、北イングランドの炭鉱労働を扱った演劇作品を幅広く収集して検討した。 前者に関しては、ヨークシャーの炭鉱コミュニティを舞台とした作品を数多く著しているジョン・ゴドバー(1956- )の一連の作品を調査した。彼の炭鉱演劇は、20世紀の炭坑労働者の生活を懐古的に描くものから炭鉱閉鎖後の元炭坑労働者の厳しい生き様を描いた作品に至るまで幅広い。今後はゴドバーのこれらの作品をポスト産業社会の視座から一貫して検討することによって、炭鉱演劇の系譜の中の重要な要素として位置づけたいと考えている。 また、北イングランドの炭鉱および炭鉱労働を扱った作品に関する研究成果の一部は、東北ロマン主義文学・文化研究会第17回研究会において「「炭鉱」の文学(前)史 ─19世紀における炭鉱および炭鉱労働者の表象─」という題で発表した。19世紀演劇において炭鉱労働者を舞台に上げた作品は数少なく脚本が入手できないものも多いが、ランカシャーの炭鉱を舞台としたワッツ・フィリプス(1825-1874)のメロドラマ『ロンドンで失って』(1867)やフランシス・ホジソン・バーネット(1849-1924)の小説『ローリィんとこの娘っこ』(1877)とその翻案劇『リズ』を取り上げて、炭鉱労働がどのように脚色されて舞台化されるかを検討し、その特徴を分析した。これら19世紀の炭鉱を扱った演劇といわゆる「産業演劇」のジャンルに含まれる作品は、20世紀以降の炭鉱労働者が書いた演劇作品と比較考察する際に重要であると考えられるため、今後も資料収集を継続して調査していきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度もまたコロナ禍による渡航制限があったため、英国出張を行って未刊行資料などを収集したり、専門家との直接的な意見交換を行ったりすることはできなかった。20世紀の炭鉱および炭坑労働者の演劇表象に関する調査と1984-85年炭鉱ストライキに関する文化表象の収集に関しては、国内での調査によりある程度は順調に進んだ。しかしながら、国内の大学附属図書館にマイクロフィルムで所蔵されているはずの演劇作品が実際には判読不可能なものであったり、資料収集が進むにつれて未刊行の重要作品が多いことも判明したりするなど、実際に英国の研究施設での調査が必要であることも痛感した。コロナ禍による教育研究環境の変化に伴い研究成果をまとめる時間の確保にも大変苦労する中で、資料収集や研究方針の調整を十分検討して行うことができなかったために研究期間の延長を申請せざるを得ず、そのため全体的な進捗状況は「やや遅れている」と言わざるを得ない。次年度は、海外渡航が再開された場合とそうでない場合の両方を想定しながら、インターネット上のアーカイブ資料の活用などの様々な方策を講じて研究をまとめていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の推進方策として、インターネット上のアーカイブで公開されている資料収集と北イングランドの主要劇場および劇作家への資料提供依頼の二つを挙げていたが、そのうちインターネット上のアーカイブでの資料収集は順調に行ってきた。今後は、使用できる予算額に応じて英国演劇に関するデータベースやオンライン・コレクション(たとえば「ドラマ・オンライン」や「ザ・ステージ」などのデータベース)の使用を進めて、資料収集を一層効率的に行いたい。また、北イングランドの主要劇場および劇作家に直接連絡を取り、実際の上演資料や情報の提供が可能であるかを確認することができなかったため、次年度はニューカッスルのライブ・シアター劇場やボルトンのオクタゴン劇場、そして劇作家のジョン・ゴドバー氏やピーター・コックス氏、北イングランドの演劇・映画・テレビ文化の研究者であるデイヴィッド・フォレスト氏らに連絡を取り、上演脚本等の資料を使用できるかを確認して研究を進めたい。 そして本年度はまた、「炭鉱演劇」という極めて限定的な主題に関する資料収集が難航したため、広く「北イングランド」に関わる演劇を調査することにしていた。次年度はこの地域を舞台とした演劇のみならず、さらに比較考察の対象として重要な労働者階級と様々な産業に関わる近現代の英国演劇を広く渉猟し、その内容を再検討することで、産業構造と社会状況の変化に翻弄された「地域」と「労働者階級」の姿を大きく「産業演劇」という枠組みの中でも見ていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度までと同様にコロナ禍による渡航制限で英国出張による未刊行資料の収集等を断念せざるを得なかったため、次年度使用額が生じた。今後英国への渡航が可能になった場合は海外出張旅費として使用することを考えているが、不可能な場合には、国内で北イングランドや炭鉱業等に関わる演劇の一次資料や研究書の購入、および視聴覚資料を含むデータベースの有償利用を通して研究を実施する体制を整えたい。
|