研究課題/領域番号 |
19K00441
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
川田 潤 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (70323186)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原子論 / ルクレティウス / 翻訳 / 古典受容 |
研究実績の概要 |
研究の初年度にあたる本年は、原子論に関する近年の研究成果(美学的・認識論的受容の再検討等)をユートピア言説と結びつけるため、2次資料を収集・分析し、本研究の理論基盤を、近代(モダン)における魂、精神、肉体との関係性をめぐる理論として整理した。その後、この理論基盤に基づき、18世紀イギリスにおけるギリシア、ラテンの受容について、具体的にはルクレティウスの翻訳の問題について、研究を行った。とりわけ、原子論の言説に「崇高(サブライム)」という概念の要素が存在していたこと、そして、この要素が原子論において果たした役割と18世紀の古典受容との関係について研究を進めた。 具体的には、トマス・クリーチによるルクレティウスの『事物の本質について』の英語訳の出版を、同時代のジョン・イーヴリン、ネーハム・テイトたちがどのように受け止めていたかを、献呈された詩に注目して分析を行った。その結果、この翻訳は英語と英国の文化を改善する試みとして肯定的に捉えられており、版を重ねることになったことが分かった。その上で、このような肯定的な受容の結果、ルクレティウスのテクストが18世紀の農耕詩的な古典受容の流れに組み込まれることになるのだが、それと同時に、それとは異なる、変化・非調和を志向する要素をもったテクストとして受容されてもいたことを明らかにした。最終的には、このような観点から考えた時、ロマン派の美学に原子論がどのように影響を与えたかについての研究にもつながる可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、18世紀の原子論の受容についての研究を進めることができたが、より広い範囲での原子論に関する資料蒐集(とりわけ、1次資料)が、海外での調査ができなかったことで遅れぎみである。また、新たなユートピア言説についての2次資料の蒐集と分析も遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の中間年にあたる次年度で、今年度行った18世紀の原子論の受容に関する研究を進めつつ、原子論に関するヨーロッパの状況についてより調査を進めて行く。それと同時に、原子論とユートピア言説との関係性についての調査を、1次、2次資料の両方において進める。その後、原子論の影響を受けた科学が、現実の政治、経済、商業言説等と結びつき、倫理無き欲望する存在という否定的な主体と共同体を産み出す過程についての研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた海外での調査および研究会が実施出来なかったために次年度使用額が増えた。次年度は可能なら海外での調査および研究会を実施する予定であるが、状況的に不可能な場合は、国内機関での複写、国外機関での遠隔複写、および遠隔での研究会などを実施する計画である。
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