研究課題/領域番号 |
19K00443
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井上 間従文 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (50511630)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | テレサ・ハッキョン・チャ / 映像の詩学 / トランスナショナル・アメリカ研究 / フェミニズム映画理論 / ポストコロニアル研究 |
研究実績の概要 |
当該年度は2020年から引き続きコロナウィルス感染症の状況下で、元来の研究実施計画の遂行が困難であり、特にテレサ・ハッキョン・チャの映像作品についてのアーカイブ資料調査が出来なかった。そこでまずはチャの文学テクスト作品における映像・映画的表現の特徴についてステファノ・マラルメの映像的詩学およびサミュエル・ベケットの散文イメージにおけるリズム等との関係から検討した。そしてチャがこれらの詩人、作家から独自なかたちで吸収し、再解釈した映像的テキストのあり方が後続のアメリカの主に女性の詩人、作家であるミョンミ・キム、トリン・T・ミンハの記憶をめぐるテクストの形式にいかに影響を与えたかを読解・検討した。こうした一連の映像の詩学と詩的テクストの映像的性質とをめぐる研究の成果として、英語論文を執筆したが、これはWiley-Blackwell社が刊行予定のA Companion to American Poetry(2022)に収録が決定している。 またアーカイブ調査の準備段階としてチャが1970年代に在籍したUCバークレー校における、同時代のフェミニズムと映画理論研究の動向を特にCamera Obscrubeという映画理論雑誌の初期の内容の検討を通して調査した。特にCamera Obscrua誌が発刊当初は女性の大学院生たち主体の研究誌であったこと、またその論調を確立するにおいてイヴォーヌ・レイナーとシャンタル・アケルマンという二人のヨーロッパ出身の映像・映画作家の作品解釈が重要であったこと、さらにアケルマンとのインタビューにチャも関わっていたことなどを明らかにした。だがチャは同時代の映画表現と理論から得た知見を文学表現および文学的アート作品にも応用し、また1970年代後半からは同時代の韓国の状況に関心を寄せることとなるが、こうした重要な差異についても検討を随時行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウィルス感染症状況下の中でアメリカにあるアーカイブへの訪問調査が不可となり、およびアメリカとフランスに在住の共同研究者の方たちとの直接の交流が限定される中で必要とされる資料収集、聞き取り調査および学会発表が遅れることとなった。「研究実績の概要」で記したように既存の資料を元に基礎的な読解作業を従来よりも丹念に進めることができたのは、制限された状況下での収穫と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は1)チャに先行してサンフランシスコ地域にて先駆的な映像表現を行った作家Terry Foxの作品に関する調査、2)1970年代バークレーにおけるフレンチフェミニズムと構造主義映画という2つの潮流の受容についての調査と聞き取り、3)1980年韓国における政治状況と、特に光州における民衆抵抗運動の表象あるいはその欠如についてチャとの関連に基づいた調査、の3点を重点的にリサーチする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度よりコロナウィルス感染症状況下のため調査のための出張が行えておらず旅費の執行が出来ていない点が理由である。 使用計画としては状況を鑑みながらも2022年度8月に2020年に予定していたバークレーでの聞き取り調査と資料収集を行い、2021年に予定していたフランスでの聞き取り調査と資料収集を12月に行う予定である。
|