研究課題/領域番号 |
19K00444
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
久保 拓也 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (80303246)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / アメリカ文化史 / 男性学 / マーク・トウェイン研究 |
研究実績の概要 |
申請者は米国人作家マーク・トウェインとその同時代の作家達が残した、「『弱き者』の声が語る物語」を中心に研究を進めている。トウェインや同時代のウィリアム・ディーン・ハウエルズらが描いた、社会の規準から「逸脱する」男性達が描かれる小説や戯曲の分析が重要であると同時に、作家とその関係者の間で取り交わされた手紙などのうち、通常は人の目に触れることが少なく、これまで取り上げられてこなかった一次的な資料を取り上げること、またそのような資料を研究者や興味を持つ人々が簡単に利用できる形にして行くことを、当研究の重要な一要素としている。2019年度は大学の派遣による在外研究の機会と重なったことを利用して、本研究に関する基礎的資料の収集とその電子テクスト作成に集中することができた。申請者はこれまでも科学研究費補助金により、米国カリフォルニア大学バークレー校内のマーク・トウェイン・ペーパーズ&プロジェクトへ定期的な訪問を行い、同所のみで利用可能なトウェインに関連する文書を調査している。今年度の滞在中にトウェインの兄・オリオン・クレメンズがトウェインや他の家族に宛てた手紙のうち、最晩年の9年間に送られた手紙を調査し、その電子テクスト化をおこなった。これにより同施設が保管するオリオンの書簡のデジタル化がほぼ完了した。今後は同施設による修正などの作業を経た後、適切な形で公開することを予定している。今年度の訪問と現地滞在は当補助金交付決定前に決定せざるを得なかったため、所属大学の支援と私費による渡航、及び滞在となった。だが、帰国後の研究進展に必要となる文献、情報機材などの購入に当補助金を使用することで、今回扱った資料の精査と予定されているデータベース化への作業が進展した。なお、この時に行った研究と関連する成果の一部は大学生を対象とする導入的な書籍の項目執筆に活かすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの進捗状況はおおむね予定通りと判断する。当研究は米国社会における「弱者」を考察するもので、これまでの研究と関連して、申請者はオリオン・クレメンズによるマーク・トウェイン、あるいは他の家族への手紙を電子テクストにするための正確な読解と入力作業をカリフォルニア大学バークレー校を訪問して行ってきた。当研究の初年度に集中的に行うことができた作業により、これまで一部を除いては存在しなかったこれらの資料の電子テクスト化をほぼ終了させることができた。この後は申請者、そしてバークレー校内バンクロフト図書館に附設されるマーク・トウェイン・ペーパーズ&プロジェクトの専門的な編集者により、テクストをより正確なものとするための校正、研究者などの読解と理解に資するための各種注釈をほどこしそれらをデータベースへ反映していく、などの作業を経る必要がある。現在、それらの作業が進行中であるが、これらを慎重に進めるためにはまだ相当の時間がかかると考えられる。それらの行程を経て、できるだけ早期にデータベースを研究者向けに公開することを今後の目標とする。最終的には米国での書籍化を目標としている資料であるが、その基礎版となるもののオンライン公開ができるだけ早期に実現するよう、申請者は引き続き関係機関と協力して作業を進めていく。当時のアメリカ社会の中の「失敗者」と考えられているオリオン・クレメンズがトウェインの文学的なキャリアに対して与えた重大な影響力について、これまで正当に扱われていない。だがこの資料が公開された後には、トウェインや当時のアメリカ社会を研究する人々がこの資料を遙かに容易に利用できるようになる。それによりトウェイン研究の進展が促されるのはもちろん、アメリカ社会の中で成功の機会に恵まれることのなかった弱者の物語が持つ諸相もより明らかになるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は申請時に想定していた米国カリフォルニア大学などでの資料調査の実施、及び外国での研究発表を行うことが難しいこととなった。それに伴い今年度は国内での資料精査継続とデータベース構築の進展に注力し、成果については論文での発表を中心とする予定である。今年度に入力が完了したオリオン・クレメンズの書簡データをより正確なものとする事と、一定のフォーマット化を進めることで、データベースとしての有用性を高める作業を行う。書簡データの形式面の整備も重要であるが、その作業と同時に、交わされた書簡に書かれる事実や、そこから読み取ることができる思想の面など、内容の分析を進め、オリオン・クレメンズがトウェインの残した作品や作家自身と間においてどのような影響関係が見られたのかを新たな視点で考察する論文を執筆していく。これに加えて、マーク・トウェインの生前未発表作品と、トウェインと親交が深く、同時代の最重要作家でありながら現在は読まれることの少なくなってしまった作家、ウィリアム・ディーン・ハウエルズの代表的作品など、未だ邦訳での利用ができないものについて、翻訳作業を進めて出版への準備を進める。研究発表については2021年8月に米国で開催されるマーク・トウェイン研究専門の学会で今研究の成果を問うことができるように時間をかけて準備を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は前期6ヶ月間にサバティカル研修を取得したため、予定通りの予算執行が難しかった。研究に必要な資料と情報機器の充実に努めることができた。次年度の執行についても、海外や国内での資料収集や成果発表のための旅費を多く計画しているため、変更を余儀なくされると思われるが、研究に当初の予定よりも資するような計画を立てて実行していく。
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